2018年1月31日水曜日

笠井瑞丈×鯨井謙太郒「ダンス現在Vol.3《暁ニ告グ》」


左から鯨井謙太郒さん、石田瑞穂、笠井瑞丈さん


  さる121日日曜日、東京国分寺「天使館」で開催された笠井瑞丈さんと鯨井謙太郒さんによるダンス・デュオ・パフォーマンス、「ダンス現在Vol.3《暁ニ告グ》」を観覧した。

  客席には、詩人の城戸朱理さん、写真家の小野田桂子さん、和光大学准教授の遠藤朋之さんがおられる。

 ダークスーツを着た笠井さん、鯨井さんがステージに登場し、端座する。すると、1969年のウッドストックでジミ・ヘンドリックスが奏でた伝説的な「Star Spangled Banner(星条旗よ永遠なれ)」が大音響でながれた。フェンダー・ストラトキャスターのディストーションでゆがみまくったアメリカ国家をバックに、ふたりのダンスがはじまる。オイリュトミーの所作をはじめ、さまざまなダンスの身体性が双つのダンサーの肉体を音叉に、交差し、波濤をうちあい、いったんは退潮し、一筋の河となって流れ、響きあう。そうして、溶けあったり、別れていったりする身体の闇洋を、ときおり、三島由紀夫の言葉が闡明して、落雷する。

 双つの肉体が手刀で空を切り、痙攣して踊りながら断片的に暗唱する三島の言葉は、「文化防衛論」だろうか(笠井さんはダンス中、三島が寄稿した121日掲載の朝日新聞記事を引用したと発言。初回公演の114日は三島由紀夫の誕生日だった)。日本の文化、身体と言葉は、生きた行動様式であるとともに、ひとつの「型」(かたち)である。「菊と刀」は、暗黒舞踏の初源から、数々のダンサーたちが挑み踊ってきただろう。
 笠井さんと鯨井さんの双つの肉体は、即興で踊りつつ、身体と言葉の、未知の「形」を追究してゆくようだった。その瞬間、双つの肉体は双数をうちやぶり、一体の透明な器として共鳴している。まるで、三島由紀夫の言葉を踏みながら、その思想の影から踊りでよう、とでもいうように。

 ぼくと年齢もちかい笠井瑞丈さんのダンスを初めて観たのは、もう、十数年もまえ。ヒップホップ、コンテンポラリーダンス、オイリュトミーと現代舞踏を縦横無尽にゆききする若き笠井瑞丈さんは、ぼくに圧倒的な交差点的身体を目撃させてくれた。空中線のように鍛えあげられ、ひきしめられた肉体とともに、そのダンスは、ほんとうに未知の輝きできらきらしていた。
 その、笠井瑞丈さんと鯨井謙太郒さんがともに踊るというのだから、観ないわけにはいかない。

 もちろん、おふたりのデュオには、大満足。同門の笠井さんと鯨井さんは稽古や公演をともにしてきたが、コラボレーションは初めてだとか。今回のおふたりのデュオは、スタイルや資質の差異をこえて、おたがいのダンスをより解き放っていたように見受けられた。

 閉幕後、お誘いをうけて、関係者打ち上げに参加させていただいた。ぼくにとって、天使館訪問は初めて。ふだんは稽古場であるスペースを、本公演では特設ステージに仕立てた。洋館のような造りの稽古場には、ダンス途中に笠井さんが弾いていたグランドピアノが一台あり、やわらかい光沢の白壁にかこまれてい、客席むかいの上座の壁は一面、鏡張になっている。公演中は、この鏡壁に純白のカーテンがかかっていた。ダンス終盤、鯨井さんがこのカーテンを踊りながらとりのぞくと、ステージを観覧している客席がそのまま映りこみ、観客は自身の鏡像とむきあうという演出がなされていた。
 もう、入館することもかなわないかもしれないので、ぼくはかの「天使館」の内部をきょろきょろとみまわす。
 さいごに、小野田さんが、笠井さん、鯨井さんとぼくをスマホで撮ってくださった。そのときの写真が、うえの写真です。
 せっかくの機会だから、三島由紀夫についておふたりにたずねた。鯨井さんは、三島由紀夫の言葉がそのまま身体(行動)となって顕現したことを指摘。笠井さんは、三島の政治思想そのものには共感していないそう。
 いわずもがな、三島は高度経済成長期における戦後日本において、日本人の伝統文化、言葉、身体性が記号化、表層化されてゆくことを、異常ともいえるほど危惧していた。戦後日本というシステム、それは、あらゆる存在の異他性を情報・貨幣価値として流通させては消費構造下に組み込んでゆくメガストラクチャー(超構造体)にほかならない。
 笠井さんも、鯨井さんも、言葉と身体による表現をつうじて、そんな現代日本に闘争を挑んでいるのではないか(余談だけれど、同時代において、べつべつの構えから戦後日本に対決を挑んだ詩人思想家として、三島由紀夫と吉本隆明を比較批評してみるのも、悪くはないと思う)。

   
そして、これ以上は、おふたりのダンスがすべてを語ってくれることだろう。

 天使館を辞去して、城戸朱理さん、小野田桂子さん、遠藤朋之さんと国分寺駅まで歩く。そのあいだ、城戸さんと小野田さんが、この日の早朝、評論家の西部邁氏が急逝された訃報をつたえてくださる。そして、駅近くの小料理屋へ。ぼくらは、終電まで、今回の公演、詩と舞踏について語りあったのだった。

2018年1月26日金曜日

LUNCH POEMS@DOKKYO,Vol.12


写真前列中央:歌人・野口あや子さん


 さる1/18第三木曜日、第12回をかぞえたランチポエムズ@DOKKYOは無事に閉会。

 今回のゲストは、現代歌人の野口あや子さん。

歌人の招待はランチポエムズでは初めてのこころみ。現代詩、自由詩の朗読になじんできた学生さんたちは、興味津々の様子。

とまれ、野口さんの朗読、というか詠唱は、「短歌」という先入見をこえて聴衆の耳とこころに響いたと思う。ある大学院生さんは、その詠唱をジャズの即興演奏にたとえていたが、野口さんは静かな声調で、それでも言葉をうねらすように、初句、二句を反復してくちずさみながら、身体と記憶の井戸からひと息に一首をひきあげてゆく。

その朗読は無伴奏ながら、たしかにジャズのような、声のアンビエント・ミュージックのような、短歌といまの音楽が袖ふれあう不思議な聴覚体験でもあった。野口さんは、学生時代に演劇も体験されたようだが、声を楽器としてあつかう才能にめぐまれていると思う。聴衆のみなさんは、約一時間、野口あや子さんの詠唱にそれは真剣に耳をすませつづけてい、会場は傾聴と沈黙の熱気につつまれたのだった。

イベントの模様は、下記リンク、「ランチポエムズ@DOKKYO 公式ホームページ」から、二月末以降にアップ予定の動画をぜひご視聴ください。

イベント後は、実行委員会の学生さんたちが、野口あや子さんと、遊びにこられていたミュージシャンでポエトリー・イベントもプロデュースされている胎動LABELの生駒徹さん、リーディングを中心に活動されている詩人の向坂すみれさんをお招きして、こころづくしの昼食会をする。

四年生の実行委員のみなさんは、本イベントを最後にランチポエムズを卒業。四年生のみなさん、二年間、おつかれさま!

そして、2018年度のランチポエムズ@DOKKYOですが、プランナーである原成吉外国語学部教授のサバティカル(研究休暇)のため、勝手ながら一年間、お休みさせていただきます。すこしずつ注目されてきて、各媒体に告知もしていただきはじめた矢先なのですが。

再開は、2019年春を予定。ことし一年を準備期間とし、よりパワーアップしてみなさんと再会したいと願っています。

いままで、イベントにおこしくださった皆様、各媒体関係者の皆様、応援をほんとうにありがとうございました。再開後は、ぜひ、かわらぬご支援をお願い申し上げます。


そして、ご出演いただいた詩人・歌人の皆様へ、こころからの感謝とお礼を。

2018年1月21日日曜日

ブログ再開と年賀状のお礼





 原稿も通常ペースにもどったので、ブログを再開します。

 打ち合わせ以外はどこにも遊びにゆけなかったから、日々の慰みは、庭に咲く花木や手元の酒器、もちあわせのものどもになる。

 満寿屋の原稿用紙のグリッドに目がつかれると、ぼくは、母がお年賀で飾った秋野不矩直筆の扇子(一番目写真)や北村宗介さんの書をながめていた。

 北村さんといえば、すてきな直筆年賀状をいただいた(二番目写真)。タイトルは、「5つの戌」。サインと璽印あり。額装して、飾ろう。

 それから、毎春たのしみにしているのが、装幀家・奥定泰行さんの年賀状(三番目写真)。いつも、愛飼のチョコラブラドールのじつに気合いのはいった撮影、デザインのほどこされたポートレートなのだ。毎年の作品を編纂し、ぜひ写真集にしていただきたい。

 年賀状といえば、本年も、たくさんいただきました。ありがとうございました。寒中見舞になってしまいますが、かならずご返信いたします。

 きょうは、これから国分寺「天使館」にて、‎笠井瑞丈さんと鯨井謙太郎さんのダンス・デュオ「暁ニ告グ」へ。

 先週の木曜日1/18は、歌人の野口あや子さんを招いての第12回ランチポエムズ@Dokkyo 。この模様は、また書きます。


 ちなみに、きたる1/27(土曜日)、早稲田大学文学部にて奥定さんとブックデザインと詩をめぐるイベントを開催します。この件も、のちほど告知します。よろしければ、ぜひ、おこしを。

2018年1月5日金曜日

新年の詩の掲載



 今月発売中の「現代詩手帖」新年1月号、「文藝埼玉」98号に詩作品が掲載されました。


 二年間書きついできた、ジャズと詩がインタープレイする連作詩「Asian Dream」。詩手帖には、その最後の一篇となる「Harlem Blues 」を。

 刊行100周年がちかづく埼玉県刊行の伝統ある年刊文芸誌「文藝埼玉」には、日本を代表するジャズ•トランペッター、五十嵐一生さんのオリジナルナンバーをタイトルにした「Nomad 」を執筆しました。

 書店などで、ぜひ、お手にとってみてください。

 シンダ・ウィリアムズ(Cynda Wiiliams)が詩う「Harlem Blues」はこちらのリンクから。ご存知、スパイク・リーが監督・出演した映画『Mo' Better Blues』の主題歌です。


https://www.youtube.com/watch?v=J1g6OUq8i9U



 五十嵐一生さんの「Nomad」は、あれ? アップされていない? 残念。五十嵐さんのペットは、都市を感じさせる。新宿をさまよっていると、ぼくはいつも「Nomad」のフレーズを思い出します。入手困難ですが、アルバム『Free Drops』に収録。


 ぜひ、詩を楽しみながら、ご視聴ください。
 
 さて、新年早々ですが、執筆に専念するため1月半ばまで、ブログをおやすみいたします。

 再開後も、ぜひ、おつきあいくださいませ。