2019年12月31日火曜日

本年もお世話になりました





 師走は、箱根、鬼怒川、中央アルプスと、山辺にばかりいっていた。やっと、帰宅し、たまった原稿を片付けたら、こんどは家の大掃除。そして、年賀状。
 来年の干支は、ねずみ。毎年恒例の一字書は、いろいろな書体の「子」を書いてみた。


 大晦日の今朝は、おせち作り。酢蓮、蕪のふくみ煮、近江市場のするめイカは、松前漬につかう。

 本年も、ほんとうに、沢山の方々にお世話になりました。
 一月の流響院、ごだん宮ざわさんでの「H」(アッシュ)京都撮影にはじまり、二月からは左右社WEBで連載エッセイ「詩への旅」がスタート。三月と九月には学習院大学でのリーディングとトーク、春はフェリス女学院大学での講義。秋は早稲田大学での講義、今年から京都大学での講義もはじまった。そして、一年間の休止後に、獨協大学英語学部主催「LUNCH POEMS@DOKKYO」もリブートした。

学生のみなさん、いつも、ありがとう!
 また、詩人ヤリタミサコさんにお誘いいただき、写真家の谷口昌良さんとともに出品した「ヴィジュアル・ポエトリィ・イン・パリ」展。マルティーナ・ディエゴさん、永方佑樹さんをはじめ、素晴らしき詩友たち、踊り手レンカさんと現存する日本最古のジャズ喫茶ちぐさで開催した「Poetry and Jazz and Night」。最後は、慶應義塾大学で開催された日本英米文学会関東支部シンポジウム、レンカさんとのデュオ・プロジェクト「K=A=E=A=I」。

 そして、なにより、五月末には新詩集『Asian Dream』が思潮社から、一年の編集期間を経て刊行された。思潮社の総編集長高木さん、編集の出本さん、稀代のブックデザイナー奥定泰之さんに、あらためて、深く感謝を。

 新年からは、鬼怒川金谷ホテル誌での連載がはじまり、気鋭のデザイン・カンパニーStoopa Ltd.の全面的な協力をえて、二宮豊氏を副編集長に、念願の国際ポエトリーサイトの立ち上げもはじまる。ランチポエムズにも、新たな展開がありそうだ。

 今年も、このブログをお読みくださり、ほんとうにありがとうございました。

 どうぞよいお年をお迎えください。

2019年12月28日土曜日

越百山へ




越百と書いて、「こすも」と読む山を、ご存知だろうか。

長野県駒ヶ根市にある中央アルプスの山。ぼくは、いま、この山の麓にかよいながら詩作を試みている。

新宿から、高速バスで約四時間。駒ヶ根バスターミナルで降車して、タクシーで宿「二人静」へ。この宿からは、中央、南、両アルプスの雄大な景観が愉しめるのだった。

宿に着いたら、まっさきに、温泉。車中での長旅の疲れをじっくりと癒す。
太田切川の川辺にある宿の、無色透明な湯は、じつにやわらかで、全身どころか喉まで潤う。保温力、保湿力も抜群だ。
風呂上がりは、名水で醸す「南信州ビール」のペールエールで汗をひかす。
壁一面の窓に、甲斐駒ケ岳や仙丈ケ岳などの雄大な山容が、いっぱいにひろがっていた。白銀の峰々が夕陽をあびて、つぎつぎ、ワインレッドの詩篇へと燃焼してゆく。

夕食は懐石料理。そのあとは、宿のバーへ。ちかくのマルス蒸溜所の長野県限定ウィスキー「信州」を、山清水の氷で割って呑む。

わが銀軸のボールペンとツバメノートをとりだし、深夜まで詩を綴ったのだった。

2019年12月17日火曜日

Duo Project「K=A=K=E=A=I」@慶應義塾大学レポート

 


関根路代先生


左 花を贈られるレンカさん


 さる12/14土曜日、英米文学会東京支部大会 シンポジウム「ポエトリーリーディングの現在位置」が開催され、ぼくと、素晴らしき踊り手レンカさんがお招きいただいて、ポエトリーリーパフォーマンスをさせていただいた。

    シンポジウムは、関根路代先生によるアメリカ詩における朗読の歴史からはじまった。つづいて、高橋綾子先生によるアメリカ女性詩人アン・ウォルドマンの朗読とテクストの関係性、斎藤修三先生によるF・チョイをはじめとするアメリカ・マイノリティ詩人たちの朗読についての発表。チョイの詩を詩誌「て、わたし」で訳された詩人のヤリタミサコさんと詩人の山口勲さんも観客席で見守られていた。
    動画ではあったが、アン・ウォルドマンのリーディングは圧巻。どれも素晴らしい発表で、とても豊かな時間をすごさせていただいた。

   そんな、いま、アメリカの第一線で活躍するパンチのきいた詩人たちのポエトリーリーディングのあとでの出演。かなりプレッシャーをかんじつつ、ぼくとレンカさんの、詩と踊りのデュオプロジェクト「K=A=K=E=A=I」がはじまった。
 まず、レンカさんによるソロ。ステージでかすかに重心をずらしつつ、客席の一人ひとりと目線をあわせてゆく、というソロだ。ほとんど踊らないことで踊る、のに、強烈なインパクトがある。
   その、ソロをうけて、ぼくは新詩集『Asian  Dream 』から朗読。レンカさんが、詩の言葉を踊りによって、いまここの時間と空間に紡ぎなおす。

    そのあとは、いよいよ、ぼくらの「K=A=K=E=A=I」がはじまった。ぼくがレンカさんの動きを即興詩へと綴り、そのフレーズをレンカさんがさらなるムーヴメントへとつれだす。
    最初のレンカさんのソロを観て、ぼくのこころはすでに定まっていた。今回の「K=A=K=E=A=I」のモティーフは、不動と動、その波間をただよう無為のトポロジー。ぼくの最初のフレーズは、「いまだ到来しない無為を漂え」だった。
   かけらのような、俳諧のような詩のフレーズがうみだす波動と、レンカさんの踊りの波動がどこかで出逢い、無為の三角波になって漂いだす。
   最後のフレーズは、「音絶えた言葉のホーン   そのミュート  沈黙が踊りでてゆくような」だったとおもう。
   レンカさんの肉体の漣が、しだいに止み、それでいて、なにか言葉にならないエネルギーをみなぎらせてゆく。まさに、沈黙と身体が紙一重で舞台にとどまるような、フィナーレだった。

   ぼくらのあとは、関根路代先生のウォルト・ホイットマンの朗読についての発表。「声と声のかさなりの果てに、音が見えるようになる」という発表に、背筋が、ぞくり。
   最後は、関根先生の司会で、高橋先生、斎藤先生、ぼくによるトーク。このトークも、ぜひ、活字におこしてもらい、文芸誌に持ち込みたい。

   そのあと、出演講師のみなさん、ご来場くださった、原成吉先生、遠藤朋之先生、小川聡子先生、金澤淳子先生、山中章子先生、車先生、林南乃加先生らとともにパーティへ。二次会は居酒屋で。学者のみなさんからの、さまざまな感想、ご指摘を愉しみながら、ビールとワインと酒の夜は更けてゆくのだった。

   レンカさん、関根路代先生、高橋綾子先生、斎藤修三先生に深い謝意を。運営をしてくださった、杉本先生、金澤先生、そして慶應義塾大学の大学院生のみなさん、ほんとうに、ありがとうございました。

    そして、シンポジウムに参加くださったみなさまに、深く深く、御礼を。

2019年12月11日水曜日

Duo Project「K=A-K=E=A=I」慶應義塾大学で開催


Photo (C) Keita Ikeda

詩とジャズのイベントをおえたとおもうまもなく、新イベントが、12/14土曜日に開催されます。

慶應義塾大学で開催される日本英米文学会シンポジウムにお招きいただいての、踊り手レンカさんとのDuo ProjectK=A-K=E=A=I」。

本ホームページ「News」欄でも、すでに告知しているので、ご覧ください。「ちぐさ」でのコラボレーションから生まれた試みです。

ぼくらの持ち時間は、30分。
そのなかで、新詩集『Asian Dream』から朗読と踊りのインタープレイ、そして、即興詩と踊りの「かけあい」をお愉しみいただこうとおもう。

今回のシンポジウムは、会員以外のどなたでも観覧できるとのこと。
研究発表は、新鋭のW・ホイットマン学者の関根路代先生をはじめ、高橋綾子先生、斉藤修三先生など。ホイットマンからアメリカ現代の詩人たちまで、「声で書く」詩人の系脈が立ち現れてきそうで、当事者のぼくもすごく愉しみです。

 ぜひ、ご来場ください。

2019年12月5日木曜日

「Poetry and Jazz and Night」レポート










All Photos (C) 池田 敬太 Keita Ikeda

(写真は上から:レンカさん、石田瑞穂。渡辺めぐみさん。マルティーナ・ディエゴさん。永方佑樹さん。出演者のみなさん)


 横浜は野毛に現存する、日本最古のジャズ喫茶といわれる名店「ちぐさ」で開催された、新詩集『Asian Dream』刊行記念イベント「Poetry and Jazz and Night」。盛会のうちに幕を閉じた。定員25名のところ、40名近いお客様にご来場いただき、立見のでる満員御礼でした。心から感謝を申し上げます。

 「ちぐさ」にも捧げられた本イベントのタイトル、Poetry and Jazz and Night」の由来は、ジャズファンの方なら、お気づきだろう。ビル・エヴァンスとスタン・ゲッツの名演のある「You and Night and the Music」からのもじりである。「ちぐさ」創業者の吉田衛さんは、生前、ビル・エヴァンスと昵懇の仲だった。出演詩人であるぼくらの控室には、なんと、ビルの直筆サインがはいったポートレートが架けられていた。

 では、当日のセットリストを、以下、そのまま添付しておこう。

Poetry and Jazz and NightTonight’s Poets Lists  30/11/2019

二宮 豊 Yutaka Ninomiya
with
Herbie Hancock and Head Hunters, “Vein Melter” from Head Hunters1973.

田上 友也 Yuya Tagami
with
Jim Hall & Bill Evans, “I Hear A Rhapsody”, “Romain” form Undercurrent (1962).

関 中子Nakako Seki & 広瀬 弓Yumi Hirose
with
 Dave Brubeck, “In Your Own Sweet Way” fromThis is Pat Moran (1957).

佐峰 存 Zone Samine
with
Modern Jazz Quartet, “Pyramid” from Pyramid (1960).

渡辺 めぐみ Megumi Watanabe
with
Bill Evans, “Waltz for Debby” from Waltz for Debby (1962).

永方 佑樹 Yuki Nagae
with
Charles Mingus, “Moanin’” from Pithecanthropus Erectu(1956).

マルティーナ・ディエゴ Diego Martina
with
Chet Baker, “Almost Blue” and “I’m a Fool to Want You” from Let’s Get Lost (1987).

トーク「詩とジャズ、夜の声たちへ」
石田瑞穂 マルティーナ・ディエゴ 永方佑樹

石田 瑞穂 と レンカ Mizuho Ishida and Renka
with
Gary Thomas, “Trapezoid” from Code Violations (1988).

 詩人の広瀬弓さんも急遽参加し、Sit-innはおおいに盛上がった。ちぐささんの音響はすばらしくて、瞑目して聴きいっていると、すぐそばでミュージシャンが演奏しているような気分になる。まるで、名盤からぬけでてきたような臨場感あふれる伝説のジャズメンたちの音と、詩人たちも、観客のみなさんも、スリリングなインタープレイ(対話)を存分に愉しんだのだった。そして、ふたたび、ジャズファンならお気づきのように、このセットリストの通奏低音が、ビル・エヴァンスなのである。

 昨年、第一詩集『元カノのキスの化け物』が話題をよんだマルティーナ・ディエゴさん、詩集『不在都市』で今年度の歴程新鋭賞を射止めたばかりの永方佑樹さんも、すばらしいセッションで観客をわかせた。
 ディエゴさんは、チェット・ベイカーのトランペットにのせ「一人酒」といった詩を聴かせる。そして、チェットが儚くささめくように歌うパートでは、観客とともに黙って耳をすまし、ショットグラスを傾ける。ディエゴとチェットによる、こころに沁入る、極上のインタープレイだった。
 たいして、永方さんは、チャールズ・ミンガスの太く重いアクースティック・ベースにのせて、『Asian Dream』の任意のページを即興的にひらき、任意の詩行を即興的に高速で読むリーディング。ミンガスの人間的にも音楽的にも強烈な個性と、オリジナリティを介在させない永方さんの非個性が、火花を散らしてゆく。これも、いまだかつてない、ユニークなセッション。

 トーク後は、ぼくとレンカさん。沈黙のなかで、観客席から黒革のライダース・ジャケットとサングラスといういでたちのレンカさんが、ゆるやかにたちあがり、踊りでる。音楽はまだない。夜と街のノイズに溶けこんで踊るレンカさんに、ぼくが詩篇「Nomad」を声でとどける。それから、音源をつかい、ぼくがレンカさんの踊りを観ながら即興詩をつくり、レンカさんがその詩の言葉にレスポンスする、初めての「K=A=K=E=A=I」を試みた。
ちぐさの夜のなかを、声と肉体の音叉が生んだ波動がとおりぬけてゆく。「夜の羽衣が やさしく ぼくらの文字をくるんでくれた」というぼくの即興のあとは、レンカさんが、長く響きつづける余韻のように踊りつづける。音絶えた詩のホーン、そのミュートさえ、ポエジーになってゆく。

フィナーレは、レンカさん、詩人のみなさん全員と、ちぐさのスピーカーのまえで挨拶。

観客のみなさんに改めてお礼を。そして、共演してくださった、詩人のみなさん、秀逸なDJを務めてくださったちぐさの笠原ディレクターとスタッフのみなさんに、深く、深く、感謝を。

LPのなかから、ぼくらに力を貸してくれた、ジャズメンたち。日本ジャズの立役者にして「ちぐさ」創業者の吉田衛さんに、こころからの敬意と謝辞を。