2020年1月24日金曜日

北園克衛句集『村』




 そういえば、昨年末、学生さんたちと東京神田神保町に遊んだとき、古書「呂古書房」で、珍本を発掘した。

 北園克衛の句集『村』である。

 一九八〇年、書肆「瓦蘭堂」からの刊行、とある。この薄手の句集を呂古書房の棚で目にしたとき、かの〝ハイブラウ〟な前衛詩人が、え、句集?というのが、正直な、ぼくの第一印象。最初は、同姓同名の俳人かとおもった。
興をおぼえ、店主にたのんで本をあらためさせてもらうと、正真正銘、あの北園克衛の句集である。
 
 刊行年をみて、ピンときた方もあるとおもうが、北園克衛没後の出版。奥付をみると、編者が船木仁、藤富保男(写真も)、装幀が高橋昭八郎という錚々たるメンバーだ。推測でしかないが、北園克衛の三回忌にあわせて、編者たちにより編まれ刊行され、おもに親族や親しき人にくばられたのではなかろうか。『村』は、生前の北園克衛が「瓦蘭堂」俳号で、八十島稔主催の句誌「風流陣」に四八号まで投句していた作品と、その後発見された「句帖」、「走り書き帖」から編纂されたという。巻末の句論「俳句近感」で北園克衛は、俳句が「スケッチに陥ちたり、都会化してゆくのは寧ろつまらない」とも書く。

 編者の藤富保男さんによれば、『村』というタイトルは、北園克衛がしばしばエッセイに登場させた故郷三重県伊勢市朝熊町の「村」からも着想された。北園克衛の句にたちゆれる望郷の情をとらえての、高橋昭八郎さんの装幀も、すごく、いい。本文用紙は和紙、表紙は落ち着いたベージュの特殊紙。タイトルの墨書は北園克衛の筆。表紙デザインが、校正稿のトンボにみえる。村から漂う往の日本情緒と、都会的なモダンのセンスが融合しているのだ。
藤富保男さん撮影の、「村」の雰囲気をのこす北園克衛生家周辺の写真も、貴重な資料といえよう。

 ぼくは、ソファに寝そべって『村』を読み、元旦の初読書を愉しんだ。最後に、北園克衛の俳句をひいてみよう。

元日を句ならずうつらうつらかな

荒れし床に梅一輪の日頃かな

 いつか、左右社WEB連載中の紀行文「詩への旅」の取材で、朝熊町をおとずれてみたい。

2020年1月19日日曜日

横浜日々好日




 出張で、横浜のホテルニューグランドに宿泊。左右社WEB連載の詩的紀行文「詩への旅」の原稿を脱稿。散歩がてら、山下公園から赤煉瓦倉庫までゆき、原稿用紙のはいった封筒を、ふるめかしい郵便ポストに投函。

 赤煉瓦倉庫内のレストランバーにはいる。うすいローズに染まった海をぼおっとながめつつ、オリーブをつまんで、イタリアの白ビール。夕飯はどうしようかな、と考えいたら、サンフランシスコの詩人、ジュディ・ハレスキさんからメール。
 アメリカ詩がご専門で翻訳家でもある高橋綾子先生の協力で、世界同時多発的に開催される文学とアートの催し「Extraction」に招待されており、その打ち合わせ。詩人のヤリタミサコさんに誘われてかなった、写真家の谷口昌良さんとのコラボレーション「しの傷」が、選考委員のあいだで好評だとか。そうすると、サンフランシスコのギャラリーに展示・出演する話もでてきて、なやましい。
 ジュディの詩を「現代詩手帖」誌でともに和訳し、昨年のちぐさイベントでも活躍された二宮豊氏からメール。ウィリアム・カーロス・ウィリアムズについての修士論文を無事に提出したとの由。若きWCWがレヴューしたT.E ヒュームの初版リフレットをもっているので、記念にさしあげようかと思う。
 こんどは、さらに、ヤリタミサコさんからメール。今年のポエケットへの出演依頼。出逢いの縁の鎖に、いまさらながら、おどろく。

 海にも照らしだされて青い闇に浮かぶ、みなとみらいの電光のなかを、吉田橋のほうへ歩く。夕餉は、黒澤明も音ずれた料理や、元町梅林にする。「クロサワ」というコースで、お造りにはじまり、コロッケ、鴨汁、和牛ステーキなどもでるが、お食事に、かなり大きなにぎり飯がでた。水菓子が、黒澤監督の好んだ珈琲ゼリーというのも、おもしろい。酒は、ホワイトホースの水割り、お銚子三本。

 夜の港街を、ふらふらと、徒歩で、ホテルへ。ふたたび、原稿用紙にむかう。夜食に、おもたせにしてもらった、おにぎりをぱくつく。いったん、ペンを休め、寝酒のブランディを呑みに、一階のバー「シーガーディアン」へ。

2020年1月9日木曜日





年末年始の原稿が一段落したので、やっと自分にもお正月休みがきた気がする。

元旦くらいは、さすがに休息するのだけれど、一月の第三集くらいまでは指になじんだ老万年筆を握って原稿用紙のまえにかじりつくのだった。新年の初原稿は、詩が一篇と鬼怒川金谷ホテルなど連載エッセイ二本、書評が三本。

未だおかえしできていない年賀状の束に、うしろ髪をひかれつつ、それでも、精神衛生のため夜の街へくりだしたのだった。
写真は、人と逢う約束で伺った、新横浜プリンスホテルの四三階のバー。宇宙船のような夜景を眺めながら、初ドライ・マティーニ。

二軒目は浦和の名バー「リンハウス」へ。初スコッチは、ゴードン&マクファイル「ハイランドパーク 十七年」で〆。「駒ケ岳」シングルモルトが金メダルを射止めたワールド・ウィスキー・アワード2019に、マスターの鈴木さんは審査員として参加していたとか。

それにしても、「初」とつけるだけで、なんでも縁起がよい気がするから、不思議だ。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

2020年1月1日水曜日

謹賀新年2020





 旧年中は大変お世話になりました。
 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 大晦日まで原稿がつづき、元旦はやや朝寝坊した。信州マルス蒸溜所で購ってきた、「駒ケ岳」シングルモルトも、呑みすぎたかもしれない。

 十時ごろに家族と新年の挨拶をして、お屠蘇とおせち。精進なますに黒豆、蝦、小浜の〆小鯛など。正月盃は、十二世紀の南宋砧青磁盃。一四代沈壽官の薩摩鶴皿におせちをとりわけてもらった。鶴の尾羽の描込が、美事。
 
 さておき。元旦早々ではありますが、左右社WEB連載の紀行文「詩への旅」第六回が掲載されました。

http://sayusha.com/category/webcontents/c21

 今回は、宗秋月の済州島。チェジュ湾の写真が、ちょっと、初日の出にもみえるような。正月の読書に、ぜひ。