2018年8月23日木曜日

夏越の鰻






 見沼の桜回廊は、もう、落葉をはじめたけれど、まだ、酷い暑さがつづいている。そんな、晩夏。妻と、夏の慰労会と称して、鰻を食べにゆく。浦和の中村家。老舗で、こちらの鰻重はよくJRの広告にも出演するのだった。

 晩夏の店内には、常連客がもちこんでそのまま繁えたという鈴虫がさかんに鈴を鳴らしている。風情ある涼やかな音色をたのしみつつ、まずはビールで乾杯。うざく、きも焼き、鰻重をたのむ。こちらの限定きも焼きは、串刺ししない。地酒を二合。

 空腹で、鰻が炭焼きされてゆく薫香をつまみに一盃やるかの時間。いい、ですね。

 待つこと、45分。捌き、刺し、蒸し、炭で焼かれた鰻重が、到着。‎赤坂の名店重箱を思わせる、磧型の鰻の盛り。米飯のあいまにさらに鰻がはさまる二段重ね。たれは野田岩よりちょとドライな辛口で、いわゆる黄金に照った焼き色。

 ことしは春から鰻を食す機会がすくなかったから、思わず、無言で、夢中でほおばってしまった。そういえば、夫婦やカップル連れのおおい店内も、会話もなく、重箱の隅を箸がかつかつつつく、くぐもった音しか聴こえてこない。

 こんな沈黙も、鰻やの風情、なのだろうか。

 夏越の鰻、来年もこようと思う。

2018年8月18日土曜日

ワタリウム美術館「ビート・ナイト」に出演




石田瑞穂とギター:村岡佑樹(Ukiyo Girl)
Photo by 小野田桂子さん(C)



田上友也


田澤敬哉


二宮豊
Photo by Mizuho Ishida


 さて、8/10に東京は外苑前のワタリウム美術館で開催された、アメリカの偉大なビート詩人阿闍梨アレン・ギンズバーグに捧げるポエトリーリーディング・パーティ「ビート・ナイト」。とても盛況で、ぼく自身、収穫のあった朗読会でした。
イベントの全体的なレポートは、当日のディレクターで詩人の城戸朱理さんがブログで書かれているので、お読みください。
また、イベントのレビューが、『現代詩手帖』誌に掲載予定だとか。そちらも、愉しみに待ちたいと思います。

あまり、話が重複してもよくないので、ぼくは、オープンマイクの参加者について書こう。獨協大学のプロジェクト「LUNCH POEMS@DOKKYO」の卒業生、二宮豊、田上友也、田澤敬哉の三氏もキース・ヘイリングのポップアートのまえで、リーディングしたのだった。

田上友也は第一詩集『ぼくときみのあいだ』を上梓したばかり。自己と他者のかかわりが、ゆれうごき、すれちがい、それでもある瞬間には決定的に出逢う。その関係性が、恋心のような瑞々しい抒情を結露し詩われてゆく。話者にとって個人にすぎなかった他者が、詩のなかで世界そのもののひらかれを予感させる存在へと生成し、「ぼく」もすこしだけ成長してゆく。若い詩人のやさしい心根が、そのままペン先から滴ったような、青春詩集だ。
田澤敬哉も第一詩集『パーラー』を上梓したばかり。詩集のお披露目ともなったリーディングは、ギタリストの熊谷勇哉氏とのデュオになった。『パーラー』の装幀者、山口英悟氏も来場されている。熊谷さんの、ジプシーのロマ・ミュージックのような、無国籍的なアクースティックギターが奏でる音の網目に、詩人の声がキャッチされてふるえ、共震する。敬哉の詩からも、若者のやさしさを感じるのだけれど、もうちょっと現代に突き刺さる刃があって、透明な痛みや、あえて黙してみる哀しみもあるなあ。その繊細な詩の表情は、そのままリーディングの音色となって、夜の時間を静かにみたしていった。
アレン・ギンズバーグの師ウィリアム・カーロス・ウィリアムズをはじめとするアメリカ現代詩を研究する二宮豊は、ソロで、朗読。彼とはアメリカ西海岸オークランドの女性詩人ジュディ・ハレスキの詩をともに訳したのだが、ポエジーのツボをよくおさえた的確な読み手という印象があった。今回は、読み手のみならず書き手としても豊かな才能をおもちだなあ、と感心。リーディングは派手じゃないが、詩の言葉そのものの力で、ぐいぐい観客を朗読に惹きこんでゆく。やはり、詩の面白さ、言葉のツボをよく学び知られている。二宮さんの詩をもっと読んでみたいし、ぜひ、詩集も編んでいただきたい。

肝心のぼくは?最近、夫婦で見事にハマってしまったロックバンド「Ukiyo Girl」のベーシスト村岡佑樹さんの胸をかりて、ウィリアムズの「詩」の朗読のあと、詩とジャズが対話(インタープレイ)する近刊の新詩集『Asian Dream』(仮題)から、「Skies of America」(原曲はオーネット・コールマン)を朗読。ブルース、スティール、ノイズを自在にスイングして即興演奏するユウキさんの電音と、インタープレイできただろうか。他者の評価はともかく、ぼく自身は、とても刺激をうけたし、楽しませていただいた。なにより、「Ukiyo Girl」のベーシスト(今回はテレキャスター)が奏でる音楽に詩と声を抱かれてセッションできたことは、幸福のひとこと。帰宅してからも、しあわせな余韻がずっとのこっていて、朗読後にこんな気分でいられるのは、ぼくにしてはじつにめずらしいのだった。

主催のワタリウム美術館、城戸朱理さん、小野田桂子さん、「ビート・ナイト」で共演した詩人や作家のみなさま、なにより観客のみなさまに感謝を。そして、ぼくらを詩に導いて出逢わせてくれた、獨協大学の原成吉先生とアレン・ギンズバーグに、心から感謝します。生前、ギンズバーグやキース・ヘイリングの貴重なお話をしてくださった、和多利志津子前館長の思い出とともに。

 ほんとうに素敵なライブショットを撮ってくださった写真家の小野田桂子さん、ありがとうございました。

2018年8月13日月曜日

よいお盆をお迎えください


 
 各地で気温が40℃をこえ、「生命の危険」レベルの熱暑がつづいた、今夏。埼玉ではお盆のきょうも、33℃をこえる、という。とはいえ、夕には鈴虫の声がきこえはじめ、庭には、百合が咲きはじめた。

 でも、まだまだ暑い晩夏をのりきるため、新しいオルシヴァル(Orcival)のシャツを購入。フランスはリヨンの老舗マリンボーダー柄ウェアのブランド。いわゆるフレンチ・セーラーはフランス南部の漁師や水兵が伝統的に着ていた衣服で、航海上での長くきびしい労働にも耐えられるように、糸を何重にもかさねる非常に複雑な織りになっている。なんど洗い晒しても、10年は着られる頑丈なシャツだ。
1920年代。バスクハットなどとともに、アメリカ人画家ジェラルド・マーフィー夫妻や作家のドス・パソスがパリのガートルード・スタインのサロンで、この蜂のマークのついたオルシヴァルのシャツを着ていたことがきっかけで、スコット・フィッツジェルド、アーネスト・ヘミングェイ、パブロ・ピカソといった作家や画家のあいだで流行しモダニストのユニフォームとして定着してしまった。片田舎の服としか見做されてこなかったマリンボーダーは、パリ発祥のモードとして瞬く間に流行してゆく。イタリアはミラノの高級ニットブランド、アヴォンチェリがこれに目をつけ、オードリー・ヘップバーンやケーリー・グラント、ヘミングェイやピカソを広告塔に流行を加速させたのだった。

オルシヴァルのシャツは、厚手の複雑な織りながら、見た目よりずっと通気性がよい。ちょっと、身幅がダボっとしているので、風もよくはいる。襟がひらいたボートネックなので、男性だと、タンクトップやカットソーをなかに着ることを推奨されるのだが、ぼくは、そのまま肌のうえに着ることをおすすめします。というのも、そもそも船底襟は襟元がおおきく空くよう工夫されており、首元がとても涼しいから。海の男女の長年の経験に織られ、よく設計された夏服だと思う。オルシヴァルのシャツを着ると、夏にはほかのシャツが着られなくなるほど、快適です。最近は、ちかくの大宮でも入荷するようになった。大宮もお洒落になったなあ。

どうでもいいことを、長々、書いてしまったけれど。わが見沼の田園では、稲穂が実って首をさげはじめ、なんともいえない初秋の芳香が漂いはじめています。
みなさま、よいお盆を。
本ブログも、しばらく、お盆休みをいただきます。
次回の更新は8/18をめどに。
写真家の小野田桂子さんがじつに素敵なライブショットを贈ってくださったから、8/10にワタリウム美術館で開催された「ビート・ナイト」にもふれて書きます。

お盆明けも、ぜひ、おつきあいください。

2018年8月7日火曜日

書家 北村宗介さんの新作





 神楽坂で開催された北村宗介さんの個展でお譲りいただいた書作品「風聲」を落掌。それも、浦和にお住いの書家が、「手渡したいから」と、自転車でお運びくださった。

 夜の10時、夏の蟲らの威声が響く、見沼の田園ちかくのローソンで待ち合わせ。店内にはいると、北村さんがもうイートインコーナーで麦酒を呑んでいる 笑 ぼくも買って、早速、乾杯。個展の感想や近況を述べあっていると、北村宗介さんが言葉どおりに作品を手渡してくださった。

 北村宗介さんの最近のお仕事は、今年、松本清帳賞を受賞した、川越宗一氏の時代小説『天地に燦たり』の題字だという。あがってきたばかりのゲラを見せながら、破顔される。受賞式では、‎北村宗介さんとおなじ原山にくらす小説家、京極夏彦氏と出逢ったとか。ぼくも、だいぶ以前にお会いしたことがある。京極氏が、浦和の鰻やに詳しいので、不思議に思ったのを憶えています。

 さて、作品のほかにも、北村宗介さんが持参されたものがあった。新しい璽印を、贈ってくださったのだ。印すと、消えがてのひらかなで、「みずほ」と浮く。製作に一週間ほどかかり、光栄にも、川越氏に贈った印と同時期に彫ったのだとか。

 このあいだ、とある機会に書いた、英字書に印してみた。毛筆とアルファベットと璽印のひらかなが、不思議と、流れるように結ばれて和紙に浮かんだ。北村宗介さん、ありがとう。生涯、たいせつに遣わせていただきます。


 もうすぐ、お盆。晩夏から秋へ、書の奥底にふるえる風の聲は、なにを語ってくれるだろうか。‎