2019年10月14日月曜日

バリ島での休息





 一週間ほど、バリ島にいってきました。

 帰国の日は、ちょうど台風十九号が日本に到来しつつあり、台風とおいかけっこをしながらのフライト。乱気流に機内はすごくゆれて、飛行機酔いをする客が続出したのだった。

 翌日、数十年に一度の勢力の大台風は、各地におおきな被害をもたらした。災害に遭われた方々に、心からのお見舞いを申し述べたい。



 さて、バリではすこし仕事もしたけれど、滞在した「メリアホテル」の敷地からほとんど一歩もでずに、プライベートビーチで泳いだり、たまっていたプルーストを読んだり、バーでカクテルを呑んだり。

 ホテルは、まさに現代のルンビニ園のごときリゾートホテル。椰子と棕櫚の木が茂り、紅白のブーゲンビリアやみたことのない百合が咲き、朝夕に蓮が開花する。
 払暁とともに、メグロヒヨドリが木のフルートのような美しいさえずりを聴かせてくれて、カワセミよりひとまわりおおきいジャワショウビンが電光石火の速度で飛び交う。バリ島の野鳥たちは、あの全身に虹をまとった小鳥、セイコウチョウがそうであるように、歌も姿も鮮やかで自己主張がとてもつよいのだった。

 ビーチはえんえんと遠浅の海で波もおだやか。紺碧から薔薇に刻々とうつりかわる海を眺めながら、海辺のテラス席で夕食をしたためる。ながらく、欧州の植民地であり交易も盛んだったバリ島は、地ワインも本格的で美味しい。
ホテルの隣には、「ミュージアム・パシフィカ・バリ」(バリ太平洋博物館)もあって、ちょうど、バリ島美術の特集展を開催していた。地元のアーティストのほかに、オリエンタリズムをもとめてバリに滞在したドラクロワ、ルソー、ゴーギャン、マティスの作品もある。ゴーギャンのちいさな彫像「大地から生まれる女神」もよかったが、20世紀初頭のドイツ人画家ヴィレム・ホフナーのえがいた「聖泉で沐浴する女たち」が、とてもよかった。豊満な胸もあらわに、色とりどりの布地と花々を水鏡にした聖なる泉で沐浴する少女たちの姿が、止めようもなく失われたありし日のバリをとりもどす。

とある日の、明け方の一時間。ガジュマルの巨樹がめのまえに聳えるバルコニーで、ぼくは一篇だけ、ツバメ印のノートに短い詩を書いた。若い詩人たちからの依頼で、未だ名前も知らないポエトリマガジンの創刊号のため、一息に書き下ろした詩だった。

銀軸のボールペンを擱くと、彼方からの潮騒と、うるさいくらいのオオジロムクドリの歌声が、世界の夜明けをしらせてくれる。

いずれ、バリと詩についてエッセイを書く日も、くるだろう。

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