2019年9月21日土曜日

九月の詩書 野村喜和夫訳著『ルネ・シャール詩集−評伝を添えて』



 ちょっとまえに、自分にとって宝物になりそうな翻訳詩集をご恵送いただいた。

 詩人の野村喜和夫さんが新訳された『ルネ・シャール詩集−評伝を添えて』(河出書房新社)だ。ぼくは、長年、神保町の田村書店でもとめた、一九五八年刊行の窪田般彌訳『ルネ・シャール詩集』(海外の詩人双書 晶文社)を愛読してきた。吉田素子訳『ルネ・シャール全詩集』も、日頃からページをひらいている。

 野村訳は、これまで、意味がつうじなかったり違和感をおぼえる、もしくはポエジーとしてはかえって説明的にすぎるなど、詩的に言葉が骨折していた箇所が見事に整骨されてい、読みやすい。この整形手術により、詩の筋も正常にはたらき、詩語の肉と肌もほんらいの色艶をとりもどすようなのだ。


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もっともまっすぐな時間、それは果物の仁が、その強情な持続から迸り出て、おまえの孤独を転移させるときだ。
(『眠りの神の手帖』より)


 新訳シャールの言葉は、野村さんがふだん書かれる詩の言葉とも微妙にちがっていたり、同一に接近したりして、興味ぶかい。
 新研究を織り交ぜての「評伝」により、シャールの生涯の全貌と作品の位置づけも、より鮮明になっている。フランス戦後詩、ポスト戦後詩の巨星にして、神秘的な「断章」の詩人がこれから若い読者にもどう読み継がれていゆくのか、たのしみだ。

とまれ、ぼくは窪田訳にもふかい愛着がある。研究者の訳は、詩人の訳とはちがうのだろう。でも、あのちょっとごつごつした詩語の読感が、なんともいえない魅力を付与している。

翻訳のポエジーは、だからむずかしいし、おもしろい。

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