2020年7月14日火曜日

鳥居昌三編『TRAP』 読書日誌1




 詩人のヤリタミサコさんより、お手紙がとどいた。「偶然 30年以上もとどまっている美しい冊子たちがいます」と、ポーラ美術館のレオナール・フジタ展の便箋にペンシルの文字。同封されていたのは、一九九〇年六月刊行、伊東の詩人鳥居昌三氏が編集刊行した『TRAP』第12号だった。

 限定195部也。表紙も本文用紙も厚手の和紙で、活版印刷された無綴の三五頁がノンブルをふられ挟まれているだけの、極度にシンプルで美しい装幀だ。
 表紙カットは、北園克衛「机」。
 佐々木桔梗氏の労作「山中散生ノート〈2〉」を巻頭に、参加詩人はJohn Solt、金洋子、島木綿子、黒田維理、David Mamet、茂木さと子、そして鳥居昌三の各氏。Nicole Rousmaniere氏の視覚詩も挿し挟まれている。
 ヤリタさんによれば、この美しい詩誌たちが十部、ある日、突然、送られてきたのだとか。

 ここ幾晩か、信州のマルス・ウヰスキイをショットグラスで舐めながら、一篇ずつ大切に耽読している。
 ぼくの宝物の一冊、と書きたいが、この詩的リフレットの温かくも浄らかなたたずまいほど〈私有〉から遠いものはない−−桃山の古唐津のように。
 だから、ぼくも、「偶然 とどまっている」とだけ、いまは書いておこう。そして、時がきたら、この詩冊子を若き詩人に手わたそうとおもう。ヤリタさんがそうしてくださったように。

 窓の外は、降りやまない簷雨。鳥居昌三「海」を読む。

過ぎ去っていく記憶の底で
きらめくものが
ある

一九九〇年六月の雨の音を聴きたくて。

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