2017年9月11日月曜日

ロンドン・パブ紀行、その2







イナー・ロンドンのマリルボン駅からすこし夜道を歩く。セイモア・ストリート・W1。リージェンツ・パーク沿いの、閑静だが、それほど高級そうでもない落ち着いたエリアに、ぼくのめざすバーがあった。

「ザ・ゼッター・タウンハウス:セイモアズ・パーラー」(the Zetter Town House : Seymour’s Parlour)というのが、そのお店。以前、仕事で知りあった、ロンドン近郊に住む夜遊び好きの友だちが、「最近、とても話題になっている隠れ家的なバーだよ。ぜひ、行ってごらん」なんて、いうから。

灯の消えた住宅街に、ちょっとだけネオンを主張するドアがあった。はいってみると、外観とちがって、店内はほぼ満員。金曜の夜とあって、なかなか、にぎやかだ。非常に感じよく迎えられて、止まり木の席につく。バーテンダーさんが、感じよく話しかけてくれて、メニューを見せてくれた。ちいさめのポークパイハットをかぶり、カイゼル髭、サスペンダー、シャツの袖からは刺青におおわれた両腕がのぞく。

バーテンダーさんのファッションもそうだけれど、店全体の雰囲気が、1900年代初頭のロンドンにタイムスリップしたかんじ。ヴィクトリアンの壁紙に、肖像画や風景画の額、時計や陶器といったアンティークがところせましと架けてある。天鵞絨のソファはもちろん、ランプスタンドや帽子掛まで、かなりクラシックなスタイルだ。それでいて、いわゆるロンドンのクラブ(ダンスフロアではない)のごとき、嫌味な場所ではない。ロンドン下町っ子の粋なセンスを感じる。そう指摘すると、マネージャーさんが、「当店は、セイモアおじさんっていう、架空の人物が経営するバーという設定です。年代は特定していませんが、内装もスタッフの服装もそのイメージで調和しています」とおしえてくれた。クラシックだけれど、アーティスティックなパンクテイストがある。不思議と、モダンなのだ。

リトルヴェニスでそんなに美味しくない 笑 ステーキを食べ、食事はすませてきたので、さっそくジン・ベースのカクテルをつくってもらう。まずはドライマティーニ。いわゆるチャーチル・スタイル。ベルモットはほんの香りづけ。見た目はごくシンプル。ざっくりつくってある。なにか、ほかの香りもしたのでバーテンダーさんに尋ねると、「セイモアのカクテルの特徴は、アロマですね。たとえばこのマティーニにつかうジンには微量のアニスが混合してあります」。たしかに、華美ではないけれど、洗練されている。それにしても、本場ロンドンのジンベース・カクテルは、めちゃくちゃ濃い。サイズもイギリス人サイズで、日本の1.5倍くらいだ。ぼく好みだが、気をつけないと、酔いつぶれてしまう。と、いいつつ、おかわりをして、お隣に座ったブロンドのおねえさんと楽しく話していると、だんだん呂律が怪しくなってきた。

さいごに、もう一杯。梔子の香りのするワインとジンを一対一で割り、氷でステアしたカクテルをもらう。

お礼をいって、店をでると、ここちよい春初旬の夜気。完全に、千鳥足。好きなディラン・トマスの詩の冒頭を「Altarwise by owl-light in the half-way house / The gentleman lay graveward with his furies; 」(ぼくは勝手に酔っ払いの詩として楽しんでいる)と口ずさむと、あれ、これ、セイモアおじさんのこと?なんてイメージが酔脳にうかび、独り笑いを、だれもいない暗い石の路面に響かせる。

「セイモアズ・パーラー」の上階は、すごく居心地のよさそうな、「ゼッターホテル」(The Zetter Hotel)というブティックホテルになっている。

http://www.thezettertownhouse.com/marylebone/bar
こんどロンドンにきたら、ぜひ泊まって、ロンドン遊びの拠点としよう。


翌朝。酒がよかったのか、まったく二日酔いにならなかった。

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