2020年10月29日木曜日

秋の信州へ

 






 いま、国際ポエトリィ・サイトを、グッドデザイン賞受賞の池田龍平さんと野原香織さんのデザイン・カンパニー、stoopa.Ltdさんとともに準備していることは、本ブログや今月の「現代詩手帖」でも書いたとおり。

 そのstoopa.Ltdさんのアートディレクター、野原香織さんの絵画作品とぼくの詩で、一冊のアートブックをつくるというご依頼をうけた。
 今夏の谷口昌良さんとの写真詩画集『空を掴め』にひきつづき、来年も、視覚芸術と詩のコラボレーションの刊行が叶う。

 そこで、stoopa.Ltdさんから、「旅行気分で詩を書きにきませんか?」というお誘い。新宿駅の紀伊國屋で、車内で呑む南仏ワインの小瓶とお土産のシャンパーニュを買い、特急あずさに乗って、おふたりのオフィス兼ご自宅のある信州へでかけた。

 茅野駅で出迎えてもらい、浅間山の麓にあるご自宅へ。お家は、建築家の内藤廣氏による設計。内藤氏の作品らしく、橅などの自然木とひろやかな採光窓を中心に建てられたモダンな住宅だ。stoopa.Ltdさんの長野オフィスは、建築雑誌にも度々とりあげられている。
 玄関から招き入れられると、木が、ぷんと香る。お家の正面はウッドデッキにつづいて牧草地になっており、冠雪した八ヶ岳がばーんと雄大に見晴らせた。草地には、梅と雪と名付けられた山羊が放し飼いにされてい、草をのんびり食んでいる。

 野原香織さんの作品群を拝見し、打ち合わせたあとは、さっそく、橅のアイランドキッチンにて酒宴。刻々と赤銅に染まる八ヶ岳を眺めつつ、ワイン、地酒の七賢、野原さんの手料理で新鮮な地野菜や馬刺をいただく。

 夕方六時すぎには、「暮らしの手帖」で活躍する写真家、砺波周平さんも合流し、土楽窯の大鍋で焚く鴨鍋でふたたび乾杯。鴨肉は、地産の真鴨で肉もぶ厚い。無論、臭みなどはまったくない。この新鮮な鴨に採れたての太葱や地茸を添えた、まさに本場の鴨葱を堪能した。
 酒宴は、信州産ワイン、アラン・デュカスも注目する七賢スパークリングなどをつぎつぎテイスティングしつつ、夜中の三時までつづいたのだった…。

 翌朝、コーヒー、スープ、パンの朝食をいただいたあと、ぼくはウッドデッキにでて、光り輝く八ヶ岳を眼前に坐し、ちいさなスケッチ帳にペンシンルで詩を書く。野原香織さんの、絵画とデザインの中間領域にある「線」が、八ヶ岳とペンを結んでくれた。

 今年で創業二十周年を迎えたstoopa.Ltdさんのメインオフィスは東京都渋谷区にあるが、池田さんと野原さんは長野の家で暮らし、仕事をしている。その、都市と自然を往還するアートワークは、古びないどころか、ますます現代の先端をつきすすんでいる
 きっと、ぼくの詩も、いままでとはちがう世界につれだしてくれるだろう。

2020年10月12日月曜日

ギャラリー空蓮房でのふたり展

 






 東京は浅草にちかい蔵前のフォトギャラリー「Kurenboh  空蓮房」で、写真家の谷口昌良さんと写真と詩の展示に挑むことは、以前、本ブログでもお伝えしたとおり。

 

 とある編集者の方から、「石田さん、ブログ、ぜんぜん更新されてませんが、大丈夫ですか? あと原稿も…」と、メールで心配もされ、新型コロナ罹患説までささやかれてしまった始末。

 元気にしております。ただ、早、年末進行の原稿や取材にくわえ、展示の準備で多忙にしていたのだった。

 

 展示は、今年の初夏に六本木の気鋭のギャラリーYutaka Kikutake Galleryから刊行されたばかりの、谷口さんとの写真詩画集にちなみ、「空を掴め Catch the Emptiness」と名付けられた。空蓮房の公式サイトでは、告知の一部がすでにアップされているので、展示の詳細はこちらをご覧ください。

 会期中は、踊り手のレンカさんをはじめ、すばらしい詩人や翻訳家の方々とオンライン・イベントなどでコラボレーションしてゆく予定です。

 

https://kurenboh.com/show/

 

 今回の展示は、写真詩画集からの谷口さんの作品展示にくわえ、僭越ながら、ぼくが「詩譜」を揮毫することになる。詩譜というのはぼくの造語、というか、発見。すこしだけ、写真でおみせします。このブログの写真は、展示の一部、一点物の『空を掴め Catch the Emptiness』。詩譜はこの本に収められた詩篇「雷曲」を、原詩と複数言語による翻訳により植物的(ベジェタル)に織りあわせ、日本語の行書とアルファベットの筆記体を組み合わせて筆耕しながら、新たな詩的時空を生成させようとする試み。英訳は関根路代先生にお願いした。

 

 そう。これを夜な夜な万年筆で筆記していて、多忙になってしまったのだ。とはいえ、この作業が、じつに愉しい。シングルモルトを舐めながら、時間と原稿をわすれ、つい、没入してしまった。

 

 新型コロナ禍で、まさに、空を掴むような一年になってしまいそうな、今年。そんな世界を、写真と詩の双つの翼で問いかけてゆく展示にしたいです。