2021年7月23日金曜日

夏を迎えに

 



 仕事帰りの午後に上野から浅草へ。念願の、駒形どぜうへ。


 とまれ、梅雨は明けて、どぜうの丸鍋では見目も暑いというもの。だから、こちらも好物のどぜう蒲焼で、一杯呑むことにした。


 蒲焼が焼けるあいだ、冷たいお新香とさらし鯨をたのむ。ビールは上野東京ラインのグリーン車内で二缶飲んできたので 笑 いきなり日本酒を。たれ口を冷やで。


 コロナ感染予防のための換気で、縁側の窓が開け放たれてい、隅田川のほうから風がはいる。風鈴が涼やかに鳴る。風韻にのって、すこうし傾いだ古唐津盃に酒を注ぐ。半年ぶりに、駒形どぜうの小上がりの時間をゆったりと愉しむ。


 二十分ほど経つと、かりっと香ばしく焼けた、どぜうの蒲焼がはこばれてきた。お調子をもう一本。丸鍋もいいが、盛夏はこれにかぎるのだ。


 どぜうの蒲焼は、鰻よりもさっぱりしており、ひと口で食せる食べ易さ。むろん、精もつく。駒形どぜうの蒲焼は、とくに、たれが辛口ですっきりとしている。ぼくの好み。作家の吉田健一が愛した金澤のどぜう蒲焼は、たれが甘口で、こちらは冷おろし原酒などのおもたい甘口の酒があう。それはそれで、美味しい。


 駒形のほうにあうのは、やはり、江戸の清酒だろう。菊正宗樽酒があれば、もっといいのだけれど。


 ちいさな泥鰌ながら、表はかりっと、内はふっくらと焼きあがった蒲焼を食しては、古唐津盃をあげ、切のいい江戸の酒をひと口。至福のひととき。


 これで、やっと夏を迎えられる。

2021年7月17日土曜日

野原かおりplus stoopa「sibira」





 テストアップも無事に成功した、国際ポエトリーサイト。そのデザインとプロデュースを担当していただいているデザインカンパニーstoopaさんについては、往々、書いてきている。

 

そのstoopaさんが満を辞して発表したアートブック・プロジェクト「sibira」に招かれ、詩作品「星の香」を寄せました。英訳は東京工業大学の関根路代先生にしていただく。装幀だけでも、かなりインパクトのある豪華本になった。詳細は、リンクから「sibira」特設サイトをご覧ください。

 

https://sibira.xyz

 

 グループメンバーはアートディレクターの野原かおりさんをはじめ、写真家の小渕喜幸さん、写真家の砺波周平さん、そしてstoopaさんという強力な布陣。ファインアートと商業マスメディアの双方で活躍するアーティストたちが集結した格好だ。おもしろいのは、長野県在住のメンバーがおおく、ゆえに、今回のプロジェクトも長野と東京を往還する日々から生まれた、ということ。

 

 今回の「01 From nowhere to anywhere」は、野原さんのドローイング作品集が主体となっている。ラインとドットで構成された、未見のドローイング。数学のカオス画像のような、枯山水のような、琳派のような線と色彩は、野原さんの柔らかな身体性を感得させつつ、端々に現代の怜悧なコンポジションを滲ませてもいる。ゆえにこのアートブックも、エッジとプリミティブ、生身とデジタル、東京と長野が複雑な交差系を編みなしている。

 

そもそも、野原さんの作品は、アートなのかデザインなのか。ただし、それらは境界線を問いかけるだけの凡景ではない。野原さんのドローイングは、その双方の名称を拒みつつ抱擁しながら、「どこからともなく どこへともなく」存在しているメディウムとしてぼくには映発する。

 

 その、線とドット、野原さんみずからのデザインと装幀に、写真と詩が野花のように咲いている。

 

 ぼくは、正直、いまだに、この美しいアートブックのなかでおこっている出来事を言語化できない。あまりに感覚的な言葉でいえば、左耳でバッハのソナタを聴きながら、右耳でアート・リンゼイを聴いている、ような。

 

野原さんのあとがきから引用するなら「言葉では言い尽くせない解像度で/線と体が邂逅する」、なにか。線と線のあいま、行間、余白として受けとるしかない、なにか。

 

sibirasybila(古代ギリシアの巫女)をおもわせよう。ところが、詩を書いているときに、シビラは長野山中のとある廃村なのだとstoopaさんから教わった。その村名はいまや地図にも記載されていない。かつては人が暮らしを営み、いまは滅びた村の名の痕から、現代社会と共振するアート、デザイン、写真、詩が、新たな粧で「どこからともなく どこへともなく」漂い生まれようとしている。

 

今回、このブログでは、交差する伏線たちをひくにとどめよう。そして、時をかけ、理解の成熟を愉しみつつ、後日、一本のエッセイをこのプロジェクトに捧げたい。

 

それだけのなにかが、このアートブックにはあるとおもう。

2021年7月11日日曜日




 

 ながらく更新ができずに、すみません。多忙でした…コロナでは、ありません。


 金谷ホテルグループのお仕事で、鬼怒川、那須高原、箱根、東京と、ちいさな旅を。写真は、金谷リゾート箱根でのスナップ。


 関東は4回目の緊急事態宣言とまんぼうになってしまったけれど。箱根では、仕事とはいえ、塵区から遠ざかり静かな森と湖と小鳥の歌に癒されていた。そして、もちろん、ミシュランで星を獲得したキャリアをもつ森シェフのフレンチにも。


 以前にも書いたように、鬼怒川金谷ホテルの季刊パンフレットで、砺波周平さんの写真を相方に、ショートエッセイの連載をしています。


 そして、同パンフレットには、鬼怒川金谷ホテル滞在記というコーナーもあり、さまざまなジャンルで活躍中のアーティストを招いてホテルに滞在してもらい、エッセイに綴っていただいている。

 2021年夏号のパンフレットには、芥川賞候補作家の木村友祐さんが滞在執筆をしてくださった。第2回はマルティーナ・ディエゴさん、第4回はおなじく芥川賞候補作家の温又柔さんが執筆してくださっている。


https://kinugawakanaya.com/#invi


 旅もままならない、いま。せめて、気分だけでも、上リンクより、ぜひ、ご一読ください。