2018年12月31日月曜日

「百年ののち」〜よいお年を



 黄昏が、だいぶ、ながくなってきた。

 ダンジョンでのライブのあと、共演してくださった村岡佑樹さんと野澤夏彦さんのロックバンドAram (アラム)の新譜CDを入手することができた。歳末の原稿を書く手や書架を整理する手のそばで聴いている。

 夜と、妻いわく「ふられちゃった男子?」がコンセプトのep。ジャケにつかわれている写真作品が印象的だ。シャガールを憶わせる、光をぎりぎりまで削いだ、薄闇でバレエする少女たちの表情に暗さはない。それは、どこか、Aram の音楽的リアリティを語っている気がする。

 ロックバンドであるにもかかわらず、メンバーのルックスをふくめ、このアルバムは極力、ロックぽくない。静謐、とさえいえる。ゼロや希薄とはちがうのだが、カリスマだの反抗だのとは異質な強度とアーティストシップが、このバンドをつらぬいている。ポスト•サイケとかいうキャッチコピーも、ささやかれているようだけれど。

    ぼく個人は、夜を生きる者たちの音楽ーー隠れひそむ秘めやかな靭さと、夜へあふれだす逆説的な光源と、闇の温もりのようなものを感じている。

 ダンジョンで共演した感触で語れば、かれらの音楽的な感性は、とてもひろやか。アラムのネーミングのとおり、その音のドアのむこうには、アメリカの文豪サローヤンがいて、現代アートが展示されていて、コンテンポラリーダンスが四肢を転変させている。

 現代ロック、いわんやショービズの文脈では語れない世界がある。ジャズやポストロックといった影響を超えて、テクニックも、創造する宇宙も、すでに独自の領域に踏みこみつつあるようだ。歌詞も、いいですね。

 朝を待つのにつかれて
 あなたは夜へ
 身をなげた        (「百年ののち」)

 2018年の終わりに、音楽の夜と朝をひたと凝視め、靭くしなやかにロックする、若きバンドの舟出を祝福したい。
 かれらの見つめる、いや、ぼくらのまえにひろがる「百年ののち」は、どんな世界だろう。
 そんな想いをいだきつつ、Aram を聴きながら新年を迎えようとしている。

 みなさん、よいお年をお迎えください。

2018年12月26日水曜日

ホテルニューグランドでカンヅメ






ちょっとまえのこと。広告の原稿を依頼されて、横浜のホテルニューグランドで連泊。ついでに(?)、来春刊行予定の新詩集『Asian Dream』(仮題)の校正をした。

つぎから次へ、原稿、講演、イベントの波がうちよせ、夏から新詩集のゲラにふれることができなかったから、この滞在を利用して一気に校正してしまおうとしたのだ。

ホテルニューグランドは、ぼくの定宿のひとつ。息抜きに山下公園や港を散歩して、潮風にあたりながらカフェジャンのベトナムコーヒー片手にベンチにすわり、海や汽船を眺めたり。ランチに中華街を探検するのも楽しい。今回は、桂宮で麻婆豆腐を食べたけれど、やっぱり、絶品だったなあ。豆腐はもちろん材料はすべて中国から空輸しているとか。

朝から夕方まで部屋で集中して仕事。多くの文士が滞在したホテルニューグランドは、毎回おなじ部屋に泊まらせてくれるので便利。ちなみに、ぼくの定部屋の隣の隣には、作家大佛次郎が専用につかっていた部屋「天狗の間」がある。仕事をあがると、ホテルの銘バー、シーガーディアンⅡでアードモアのソーダ割りを呑みつつ一服。夕餉は、予約してあった、たん熊北店熊魚庵へ。白木のカウンターで軽めのコースをいただく。主菜は、名物すっぽん丸鍋にした。とはいえ、すっぽんの身はほとんどなく、滋味溢れる琥珀色のスープを主にいただく鍋なのだ。なんともいえない豊穣なスープで、これで、ぬる燗にした黒龍吟醸純米酒を一本呑んでしまう。今回、旅盃は、北大路魯山人の刷毛目盃を持参した。
すっぽん鍋のあとには、これも、たん熊名物、かやくご飯がでる。たん熊以上に美味しいかやくご飯を、ぼくは知らない。ご飯のお味は関東にあわせてあるらしい。京都本店の味はもうちょっと淡い。やはり、スープがメインだとお腹が減るのか、はも、中トロ、白鯛のお寿司を一貫ずつにぎってもらった。食後は、シーガーディアンを再訪。タリスカー12年、響21年を、寝酒に一杯ずつ。

翌朝も午前六時から執筆。遅い朝食は再びたん熊で朝粥をいただく。お午にチェックアウト。あまりに美味しかったから、ランチはもういちど、桂宮で麻婆豆腐を食べちゃった。

2018年12月17日月曜日

Dungeonでの一夜〜レンカ(踊り)×村岡佑樹(g)×野澤夏彦(g)×石田瑞穂(詩)〜


石田瑞穂 Mizuho Ishida 
 Photo by ©️池田敬太 Keita Ikeda


Renka 
Photo by ©️池田敬太 Keita Ikeda



野澤夏彦 Natsuhiko Nozawa
Photo by ©️池田敬太 Keita Ikeda




村岡佑樹 Yuki Muraoka 
Photo by ©️池田敬太 Keita Ikeda


 去る11月9日の日曜日。東京板橋区にあるアートスペースDungeonにて、詩とアートのコラボレーション展「直角はありません」のクロージング・イベントが開催された。
 本ブログでも告知してきたけれど、踊り手のレンカさん、アルバム「百年ののち」をリリースしたばかりの新鋭ロックバンドAram(アラム)のメンバー野澤夏彦さんと村岡佑樹さんによるツインギター、という編成で、ぼくらは「ポエトリー・パフォーマンス」に挑んだのだった。

 会場は、大盛況。観客席には、コラボレーション展に参加された詩人の広瀬大志さんと、そらしといろさん。そして、広瀬さんと共創された美術家の宇野和幸さん、詩人の生野毅さんもお見えになる。
 獨協大学教授の原成吉教授をはじめ学生、卒業生、早稲田大学とフェリス女学院大学の学生のみなさんもご来場くださった。

 イベントは、午後5時からスタート。まず、「絵画による詩は可能か」と果敢に問いかける美術家のタカユキオバナさんによるポエトリーリーディング。そして、本展の名づけ親にして詩人の川口晴美さんがリーディングをされた。つづいて、ぼくらの出番。

 漆黒のドレスをまとったレンカさんが、登場。ソロで踊りはじめる。そこに、野澤夏彦さんと村岡佑樹さんが、かすかにひずむディストーションを対奏しつつはいってくる。さらに、ぼくはノートに書きつけた長篇詩「神迎え」(かむかえ)を粒焼くように、朗読していった。
 レンカさんのしなやかな四肢は、極力動きを抑えつつ、音楽と詩の言葉の透き間にゆらめきだち、舞い、鳥に、雪に、光へと生成してゆく。そうしながら、音楽と言葉の抱擁をうながす形象を紡ぎだす。
 野澤夏彦さんと村岡佑樹さんのツインギターは、クリアからノイズまで、電子の音色と音響をたくみに重奏させ、織り解きながら、エレキギターという楽器の潜在性を詩の深層まで降りてゆく。しかも、ロックやジャズのコードやリフをほとんど駆使せず、踊りと詩がその場で生起させる宙空から、完全に即興で、特異なスケールとビートを醸してゆくのだった。それは、終盤のふたりの即興ソロ演奏でもそうで、シングルノートで鮮やかにソロをとる村岡さんにたいし、野澤さんはエフェクターを自在にあやつり茫洋と揺蕩うかのアンビエントを展開していった。
 フィナーレは、レンカさんの踊りとぼくの詩作品「ネザーランド」(『耳の笹舟』収中)の朗読でデュオ。ぼくの書く詩は本質的には宛先不明の詩だと思う。でも、この夜、じぶんの詩が初めて、レンカさんの踊る肉体に運ばれ、どこか遠いアドレスにつれていってもらえた、という得がたい感覚を得た。臆面なく書けば、一詩人にとって、とても幸福な出来事だと思う。
 これもすべて、レンカさん、野澤夏彦さんと村岡佑樹さん、お三方の稀有な才能とアーティストシップの賜物としかいいようがない。

 そして、もちろん、この夜ご来場くださったgreat audiencesのお力だと思います。

 こうして、オファー当初はまったく予期していなかった成果を得たのも、忍耐強くご支援くださったDungeonのオーナーの戸野倉あゆみさん、キュレーター/プランナーであり映像作家の安藤順健さん、そして、レンカさんとぼくをひきあわせてくださった類稀な批評家にして詩人の生野毅さんのおかげです。また、写真家の池田敬太さんは、この記事にも掲載させていただいている素晴らしい写真作品を、無償でお貸しくださった。ここに記して感謝いたします。

 みなさま、ほんとうに、ありがとうございました。

2018年12月5日水曜日

Dungeonでのリハーサル


右:野澤夏彦さん 左:村岡佑樹さん


 巣鴨のとげぬき地蔵にお参りしたあと、蕎麦屋で呑み、板橋本町のアートスペース、ダンジョンへ。

 12/9のポエトリーリーディングのためのリハーサルがあったのだ。いま、書きすすめている長篇詩「神迎え」(かむかえ)の原稿をもって。当日読む原稿は、会場に展示もされます。

 晩秋の寒夜にもかかわらず、リハーサルは、踊り手のレンカさん、ロックバンドのAramの村岡佑樹さん、野澤夏彦さんのフルメンバーで参加。ダンジョンのオーナーの戸野倉あゆみさんと本展キュレーターの安藤順健さんも立ち会ってくださった。

 みなさん、日中の仕事をおえて、リハーサルというよりゆるやかにセッションを愉しむ體だ。でも、音と踊りがはじまるやいなや、酔いもさめるテンションでリハ開始。

 気心知れた村岡さんと野澤さんのギターがからみあう音の空中を、レンカさんが泳ぐように舞う。詩も、ただただ、時を忘れて愉しみ、たゆとう。ジャンルを越境するバンドのような。すごく、豊かな一時間でした。

 当事者ではあるけれど、当日が待ち遠しい。ちょと、緊張しますが。イベントの詳細は、下記リンク、ダンジョン公式ブログをご覧ください。


http://chikashitsu.blog.shinobi.jp

 ぜひ、お越しください

2018年11月30日金曜日

レンカ、金子雄生デュオ公演「ゆ・れる ゆ・れる」



 去る11/15夜、東京阿佐ヶ谷の名曲純喫茶ヴィオロンにて開催されたレンカ(踊り)と金子雄生(Cor,民族楽器)のデュオ公演「ゆ・れる ゆ・れる」を観にいった。12/9に板橋宿本町Dungeonでレンカさんとともに、ぼくとポエトリー・パフォーマンスにご共演いただくロックバンドAram(アラム)のベーシスト村岡佑樹さん、ギタリスト野澤夏彦さんもお誘いして。

 大正期にタイムスリップするかの格調高い木づくりの店内。上座には、巨大なスピーカーと蓄音機が鎮座している。ハイフェッツらのポートレートとともに、そこかしこうずたかく積まれているのはすべてレコード。CDなぞは一枚もない。
 画家美作七郎ゆかりの喫茶店としても知られ、店内の壁には氏の油彩画が架かる。玄関ドア脇には、画家と親交のあった作家五木寛之氏の生原稿も展示されていた。

 マスターから、ブランディをしたたらせた香り善きドリップ珈琲をいただきながら、音楽と踊りの奏でる宇宙に陶酔した二時間だった。

 金子氏のコルネット、パーカッション、口琴、歌、ときには詩の朗読の近傍で、背中のファスナをおおきくひらいた紅いドレスのレンカさんが、細く絞り鍛えた背筋を蠢かせながら、妖艶に舞う。うごきは、微動をくりかえし、じつにゆるやかに放物線をえがく四肢で、金子氏が投げかける物音にさわり、新たな〝ゆれ〟へと踊りでる。生きた石に鑿をあてたかの、肉態、踊り。
 ダンスたることも舞踏たることもゆらす、レンカさんの融通無碍の軀動は、まさに踊りのヌーヴェルバーグだと思う。そんなレンカさんの「隣」を奏でる金子氏の多彩な音楽とアプローチは、独りだけのビックバンドのようだった。

 公演後は、誘い合わせて来たAramのベーシスト村岡佑樹さん、ギタリスト野澤夏彦さんとちかくのRojiへ。ミュージシャンたちがよくあつまるバーなのだとか。ぼくはタリスカーを呑みつづけ、ロック、ジャズ、今回の公演について、おふたりと語り明かしたのだった


*ヴィオロン店内は撮影禁止でしたので、許可をいただき、上記画像を掲載させていただきました。

2018年11月23日金曜日

リサンミゲル@デザインフェスタギャラリー



リサンミゲルさん



石田瑞穂 Photo by Maru


 去る11/3、原宿のデザインフェスタギャラリーWESTへ。リサンミゲル、ずーしー、パン、Makiron、マル(スタッフ)各氏の20代のアーティストたちによる展覧会「Selfish 」が開催されていたのだ。
 デザインフェスタ、いま、若いアーティストのあいだで有名な人気スポットだけれど、ぼくは、はじめてうかがった。
 常時、7つほどの展示がおこなわれているらしく、中庭にすてきなカフェバーもあり、グラフィティアートが壁面に彩られている。
 以前、渋谷駅のちかくに住んでいたことがあって、キャットストリートにはよく来ていた。本格派の現代アート、アニメ、アンダーグラウンド、モデル撮影フォトまで、多様なアーティストの展示がつどう。こちらにくるだけで、東京アートの「いま」が、コンパクトに体感できそうだ。観光名所にもなっているらしく、フランスやアジアの方々もおおかった。入場料無料なのも、いいですね。
 透明でノスタルジックな画調だけど、どこか不穏なメモリーでもあるリサンミゲルさんの絵画や写真作品。そして、絵画や写真と呼応するように詩作品もいくつか展示してある。展示の数日前に、彼女の第一詩集『リハビリテーション』が刷りあがってきたばかりだともいう。
 その日は純粋にみなさんの作品を
観にきたのだけれど、ポエトリーリーディングをごいっしょすることになった。展示作品をまえにセッションがはじまる。

 詩の朗読は、めずらしくもあるのだろう、日本人や海外観光客もたちどまり、作品を観て、言葉に耳をすまして去ってゆく。観覧者のなかには、もともと詩に興味のある方もいるらしく、いっしょにリーディングしませんか?と誘うと、なぜか、スマホに詩がはいっており 笑 バスぺールエールを片手に二時間、リーディングに興じた。多彩な作品を聴けたし、気負いもせずにゆるゆるとセッションできて、楽しかったなあ。クラブでの演奏のあと、ジャズミュージシャンもよくやるセッションのように。
 この夕方のセッションがきっかけとなり、展示期間中は全日、自由参加のリーディングをしたらしい。デザインフェスタでも話題になり、スタッフブログで紹介されたとか。スタッフブログは、下記リンクをご覧ください。
http://designfestagallery-diary.blogspot.com/2018/11/selfish.html

 みなさん、ありがとう!デザインフェスタも、ぜひ再訪したい。

2018年11月15日木曜日

12/1-9 Dungeon「直角はありません」開催


 きたる12/1から12/9まで、板橋本町駅からほどちかくの個性的なアートスペース Dungeon ダンジョンにて開催される、画期的な詩と現代アートのコラボレーション展覧会「直角はありません」。

 その千秋楽の9日の日曜日17時から、以前からゆるゆるお知らせしている、踊り手のレンカさん、新世代ロックバンドAram(アラム)のベーシスト村岡佑樹さんとギタリスト野澤夏彦さんという、ドリームメンバーの肩をかりてポエトリーリーディングに挑みます

詳細は、下記、公式ブログ「地下室ブログ」をごらんください。

http://chikashitsu.blog.shinobi.jp

 Aramは、11/11に下北沢で大盛況に湧いた、CD発売記念ライブを敢行したばかり。アルバムリリースを目前に、いまノリにのっているバンドだ。

 公演は、板橋アートプロジェクトの助成により、入場料は無料です。

 Dungeon は、その名のとおり、半地下に存在するコンクリートむきだしの地下壕のようなスペース。ニューヨークの伝説的なアートスタジオNitting factory を彷彿とさせる。アンダーグラウンドアートのファンや廃墟マニアには、たまらないスペースかもしれない 笑‎

 公演時刻や場所など、ウェブサイトでチェックして、ぜひ、おでかけください。

2018年11月10日土曜日

骨董市と上海蟹






 さる11/2金曜日。詩人の城戸朱理さん、写真家の小野田桂子さん、小説家の中沢けいさんとパシフィコ横浜で待ち合わせ。「横浜骨董ワールド2018」に出かけたのだった。中沢けいさんは〆切中でこられないとのお電話。

 けれども、今回の骨董祭、城戸さん曰く「骨董市なのに骨董がない」、ざんねんな結果に。三人とも収穫ナシで会場をあとにした。

とまれ、そんなことは骨董市にはつきもの。最初から、本日のメインは横浜中華街の銘店「桃源屯」で食す上海蟹ときめてあったのだ。

上海蟹。立冬のころが旬で、李白をして「究極の美食にして、至高の沈黙」と吟しめた食物である。
沈黙というのは、蟹を食べるときは皆黙ってしまうということ。桃源屯の上海蟹コースは、まず、紹興酒で生の蟹を漬けた「酔っぱらい蟹」から。つぎに、まっ赤に、ほっくり炊けた「ゆで蟹」。しまった身もおいしいけれど、頭胴にみっしりつまった、蟹味噌、卵、白子が、たまらない。4、6、8年ものの甕だし紹興酒をつぎつぎ口にふくみ、酒の味香が口内に残留しているうちに蟹をいただく。酒と蟹味噌が口のなかで甘くとろけあう。箸で蟹味噌がとれなくなったら、甲羅に紹興酒をそそぎ濯いで呑む。酒、蟹。酒、蟹。ぼくらも、ただ、黙々と食し、呑んだ。なるほど、至高の沈黙。
中沢けいさんの分まで、四人前の上海蟹を堪能したのだった。

東門で蟹ならずプードルらしき犬と戯れつつ、ここちよく酔い歩き、ぼくの宿泊先のホテルニューグランドのバー「シーガーディアンⅡ」へ。満席。よって、城戸さんの知っている静かで落ちつけるスタンダードバーでさいごに一杯。
ホテルの部屋にもどり、あしたはイベントなれど、幸せに、ふら、ふら。翌朝。上海の海の味と馨が、まだ、口中と味蕾にのこっていた。

 後日、ブログの原稿をPC清書してもらったところ、なんだかもうタイトルを一瞥しただけで、またワクワク(ムラムラ?)してきました。

2018年11月1日木曜日

早稲田大学での講義



 早稲田大学理工学部で詩のリレー講義「日本の詩、世界の詩」がはじまった。ことしは、聴講生の数がちょとおおく、130名ほど。和光大学教授にして、ぼくのアメリカ詩研究の先輩、遠藤朋之先生のあとにつづく。ぼくの担当は、日本の近現代詩だ。
 最近、「トランスポーター」シリーズを観たからか、服装は、アルマーニのブラックスーツとタイ 笑

 この講義、フランス詩の後藤美和子先生ほか、錚々たる講師陣が教鞭をとられている。ぼく自身が、先生方の講義を聴講したいくらい。

 さておき、早稲田界隈、というより神田川沿いは好きなエリアなのだった。だから、毎年、この時期がくると、秋の神田川散歩を楽しんでいる。庶民派の老舗そばやのもり、関口芭蕉庵、フォーシーズンズになってしまった椿山荘ホテルのバー、鰻のはし本など。講義後は歩行と酒に憩う径があるのだ。もちろん、拙詩集の版元思潮社は、神田川上水の近辺にあり。

 神田川沿いに興趣をおぼえるのは、好著、朝日新聞社会部刊行の『神田川』のおかげもある。神田川沿いに、墨田から西東京までの今昔を解説してゆくこの本の記者さんのひとりは、ぼくの恩人でもあった。

 昨年ふれた、都電荒川線コースもいいですね。


 そんな神田川や都電荒川線散歩についても、拙ブログでご紹介したい。

 早稲田大学の学生さん、ことしも、よろしくお願いします。

追伸 この日、講義では、田村隆一の詩を読む。そのせいで、ひさしぶりに、田村さんが東京一の居酒屋と呼んだ大塚の江戸一にゆきたくなった。満員。よって、大宮駅前の古参大衆酒場いづみやへ。ここの早い時間の常連さん、平均年齢は70歳代といったところ。ハイライトを吸い、焼酎を呑んでいる方もいる。ぼくはブラックスーツとタイで、ホッピー三杯と焼鳥。ゴロワーズを吸っていたら、「お、両切り、なつかしいねえ」と、ご老体。お会計は1600円也。

2018年10月26日金曜日

秋の箱根にて






昨秋、箱根にオープンしたばかりのKホテルに取材仕事で投宿した。二万平米の森にひっそりたたずむリゾートホテルは、全室十四室。すべての部屋に十和田石の湯舟の浴槽がついている。アートディレクターの池田龍平さん、写真家の砺波周平さん、アシスタントの阿部さんとのお仕事。

箱根湯本駅から強羅駅まで、箱根登山鉄道でガタン、ゴトン、紅葉トンネルの内側を低速で走り、紅い大涌谷に架かる眼鏡橋をしたにゆっくり登ってゆく。一輌しかない、オレンジ色のちいさな車躯の登山鉄道とは、小学生のとき以来の再会。途中、二回の「スイッチバック」がある。バックしながらでも着実に登ってゆく移動の感覚が懐くしく、愛おしい。

取材初日の夜は、ロアール地方の星付レストランで十年修行したシェフのつくるディナーをいただく。柿の葉につつまれ、葉をひらけばそこに秋の吹寄せがあるという趣向の、真鴨のフォアグラ西京焼き。あえてワイングラスでいただくシャンピニオンのコンソメスープなど、お料理はどれも素晴らしかった。
深夜はバーで、携行したフランス渡の十九世紀末ショットグラスに、信州マルス蒸留所のモルトウィスキーを注いでいただく。

取材二日目の暁方。コマドリたちの歌声を聴きながら、部屋のウッドテラスに備え付けの温泉にはいる。名高い箱根仙谷の湯は、絹のようになめらかな鉱泉。曙光が、明星岳の山の端と空に浮かぶ雲を紅く染めあげて。ブナやコナラの樹冠が透明な光をかきまぜてそよぐ。
箱根の二日間のすべてが、なんだか、秋の産んだ幻のようだった。

2018年10月17日水曜日

「いばらき詩祭2018」




塚本敏雄氏


右:石田瑞穂 左:村岡佑樹氏

去る10/13。つくばエクスプレスのつくば駅ちかくで開催された、「いばらき詩祭2018」に出かけた。目路いっぱい広がる黄に色づいた田畑と、青空を背になだらかな筑波の山なみ。こころも車窓におおきく広がるよう。

改札口で出迎えてくださったのは、詩祭ディレクターの詩人塚本敏雄さん。主催の茨城詩人会の方々とのご挨拶もそこそこに、「朗読について」というタイトルで、塚本さんとぼくが前座トーク。
いま、「前座」と書いたけれど、この詩祭の特色は、つづいてのオープンマイク朗読がメイン、ということ。前々回に書いた、「ポエマホリックカフェ」の伝統でもある。近現代詩を永く担ってきた伝統ある詩誌「白亜紀」や「青い花」同人、茨城詩人たちのみならず、県内外からエントリーした一般客もおおい。二十二名の参加者たちが、二時間におよんで朗読された。
朗読の順番は、その場でのくじ引き。このチャンス・オペレーションなら、参加者だれしもが途中退席もせずに、緊張感をもって他者の朗読に聴き入るだろう。どの詩も、声も、いばらきや筑波の風光、土の香、時間を詩行にたわわに稔らせていて、最初から最後まで聴きいってしまった。

ラストは、塚本敏雄さんの朗読。パワーポイントを用いつつの新しい試みで、ぼくは、初めて聴いた。スクリーン上で写真と詩の言葉がわかりやすくプレゼンテーションされており、たしかに、聴きやすい。それでいて、不思議と、塚本さんワールドがひろがるのだから。身近に共創しうるミュージシャンやアーティストをもたない詩人にとってPCは、興味深い可能性だろう。
つづいては、ぼくとロックバンドAramのベーシスト、村岡佑樹さんとのデュオ。今回、村岡さんが奏でるアクースティックギターとぼくの朗読は、アンプラグドで挑んだ。その形態が決定したのもイベント一日前で、朗読のための詩作品が決まったのは、当日その場という 笑 あえて、極度に即興性を高めてみた?わけだけれど、村岡さんにはいい迷惑だったかも。

それにしても、茨城詩人の方々の温かいおもてなしとホスピタリティには、感じ入ってしまった。手ずからご用意してくださった昼弁当に夕餉のお魚。署名入り詩集もお求めいただけた。めずらしく詩祭に同行した妻は、オープンマイクを聴いて、「こころと言葉を失くしたような人がおおいのに、詩をつうじて自分の言葉を保ちもとうという方々に出逢えてよかった」といっていた。
たしかに、情報速度は飛躍的にあがりはしたものの、自分の体と声で言葉を保持し、他者と隣席しようとする身体性は薄まりつつあるのかもしれない。その意味で、オープンマイクは、詩人よりもだれよりも、そうした身体性と他者との出逢いを回復しさきへうながす、創造の十字路なのかもしれない。

茨城詩人会や詩祭で出逢ったみなさま、硲杏子会長、高山利三郎さん、司会の関和代さんと柴原利継さん、そして、塚本敏雄さん。こころから、ありがとうございました。

2018年10月12日金曜日

踊り手 レンカさんと


Photo by 大洞博靖氏


きたる12月。開催日は未定だけれど、東京は板橋宿本町ちかくのギャラリー「ダンジョン」で、詩と美術のコラボレーション展が開催される予定です。ダンジョンを主催する映像作家の安藤順健さんと詩人・評論家の生野毅さんがタッグを組んでディレクションをする。
ぼくは、展示はしないのだけれど、今年8月にワタリウム美術館で共演したバンドAramのベーシスト・村岡佑樹さんと、今回、初共演となる踊り手のレンカさんとで、ポエトリー・リーディングに挑みます。さらに、Aramからもうお一方、出演予定。

さて、9/27、「開座・森下アトリエ公演 夜たらし」にてレンカさんが踊るという。安藤さん、生野さんとともにうかがった。共演は、岡庭秀之(舞)さんと金子雄生(トランペット・民族楽器)各氏。場所は、墨田区のとあるマンションの一室。でも室内は、古畳と木箱が雑然と置かれた、大正期の芝居小屋の雰囲気。金子さんがダークでフリーなフレーズのあいまに、映画「死刑台のエレベーター」のあのメロディーを引用し、白髭で着物姿の舞手、であるはずの岡庭さんが即興で古典落語をぶつ。そのテクスチャーの表裏で、レンカさんが、舞った。

今回のレンカさんの「舞」は、あまり激しく大振な動きはせずに、たたずみ、ゆれ、顔と指先と肉体と白い肌が見せる表情のうつろいで、言葉にならないなにかを、うったえかけてくる。岡庭さんの艶っぽい落語の近傍、白熱灯をもちいた「変顔」芸で、子どものように遊びまわりながら。
その動きは、とてもシンプルだ。両腕を肩まで水平にゆっくりとあげ、ライトの光を指先で散らしながら、祈りスレスレに、ゆっくりと体の正面であわせるだけで、他界のようなゾーンを降ろしてしまう。そして、その動作は肉体のエロティシズムを放散しつつ、人形の冷たい自動性もおびている。光のなかで、儚げにゆれる、乾いたエロスを。
レンカさんは、自身の身体を、ダンスと呼んだり、舞踏と呼んだりするのを好まないみたいだ。さるダンス・カンパニーで学んだ彼女の「踊り」は、いまはどのスクールにも属していない。ただただ、惹きこまれ、ずっと観ていたくなる素直な美しさと深さを宿している。
夜には、予告なく新宿の路上にでて、見ず知らずのミュージシャンやパフォーマーたちと一期一会のセッションを愉しむという、レンカさん。Aramのみならず、そんなフリーな肉体とアーティストシップをもつ踊り手と、これから、一夜の夢をみることができるなんて。とても、光栄で、たのしみ。

(レンカさんについては、公式ツイッターhttps://twitter.com/qurioneをぜひチェックしてください)

2018年10月5日金曜日

「いばらき詩祭2018」に出演



来週10/13土曜日、つくば市の詩人、塚本敏雄さんのお誘いで、「いばらき詩祭2018」(主催:茨城県詩人協会)に出演します。詳細は、下記リンク先、つくば市の公式ホームページをごらんください。


最初に、塚本敏雄さんとぼくとで、詩の朗読についてのトーク。つづいて、オープンマイク、最後は塚本敏雄さん、ぼくによる朗読、という構成。

朗読では、この秋、某メジャー・レーベルから新譜をリリースする、ご存知、Ukiyo Girlのベーシスト・村岡佑樹さんとデュオします。Ukiyo Girlは、アルバムリリースにともないAram(アラム)と改名して活動してゆくそう。

トークにあたり、塚本敏雄さんから、「事前に詩の朗読について意見交換しましょう」というメールをいただく。数日後、塚本さんから、2000年から五年間にわたって継続した、オープンマイク朗読イベント/マガジン企画「ポエマホリックカフェ」の記録単行本と冊子をお送りいただいた。ミュージシャン・詩人の友部正人氏や、ぼくも愛読する詩人の田口犬男さんも参加されたプロジェクト。一周年記念アンソロジー『ポエマホリックカフェ アニュアル』には、塚本さんの詩「『山月記』論」が収録されていた。

すべてのものは彼方からやってきて
果てしなく ぼくたちの体にぶつかる

ぼくも、詩の朗読についての想いをしたためて投函する。一時間で、満寿屋のB5版原稿用紙に三枚。お手紙というより、なんだか、エッセイになっちゃったけれど。朗読イベントと、考え、書くことが結ばれて、豊かなひとときだった。当日も、たのしみ。

 ぜひ、お越しください。