2018年12月31日月曜日

「百年ののち」〜よいお年を



 黄昏が、だいぶ、ながくなってきた。

 ダンジョンでのライブのあと、共演してくださった村岡佑樹さんと野澤夏彦さんのロックバンドAram (アラム)の新譜CDを入手することができた。歳末の原稿を書く手や書架を整理する手のそばで聴いている。

 夜と、妻いわく「ふられちゃった男子?」がコンセプトのep。ジャケにつかわれている写真作品が印象的だ。シャガールを憶わせる、光をぎりぎりまで削いだ、薄闇でバレエする少女たちの表情に暗さはない。それは、どこか、Aram の音楽的リアリティを語っている気がする。

 ロックバンドであるにもかかわらず、メンバーのルックスをふくめ、このアルバムは極力、ロックぽくない。静謐、とさえいえる。ゼロや希薄とはちがうのだが、カリスマだの反抗だのとは異質な強度とアーティストシップが、このバンドをつらぬいている。ポスト•サイケとかいうキャッチコピーも、ささやかれているようだけれど。

    ぼく個人は、夜を生きる者たちの音楽ーー隠れひそむ秘めやかな靭さと、夜へあふれだす逆説的な光源と、闇の温もりのようなものを感じている。

 ダンジョンで共演した感触で語れば、かれらの音楽的な感性は、とてもひろやか。アラムのネーミングのとおり、その音のドアのむこうには、アメリカの文豪サローヤンがいて、現代アートが展示されていて、コンテンポラリーダンスが四肢を転変させている。

 現代ロック、いわんやショービズの文脈では語れない世界がある。ジャズやポストロックといった影響を超えて、テクニックも、創造する宇宙も、すでに独自の領域に踏みこみつつあるようだ。歌詞も、いいですね。

 朝を待つのにつかれて
 あなたは夜へ
 身をなげた        (「百年ののち」)

 2018年の終わりに、音楽の夜と朝をひたと凝視め、靭くしなやかにロックする、若きバンドの舟出を祝福したい。
 かれらの見つめる、いや、ぼくらのまえにひろがる「百年ののち」は、どんな世界だろう。
 そんな想いをいだきつつ、Aram を聴きながら新年を迎えようとしている。

 みなさん、よいお年をお迎えください。

2018年12月26日水曜日

ホテルニューグランドでカンヅメ






ちょっとまえのこと。広告の原稿を依頼されて、横浜のホテルニューグランドで連泊。ついでに(?)、来春刊行予定の新詩集『Asian Dream』(仮題)の校正をした。

つぎから次へ、原稿、講演、イベントの波がうちよせ、夏から新詩集のゲラにふれることができなかったから、この滞在を利用して一気に校正してしまおうとしたのだ。

ホテルニューグランドは、ぼくの定宿のひとつ。息抜きに山下公園や港を散歩して、潮風にあたりながらカフェジャンのベトナムコーヒー片手にベンチにすわり、海や汽船を眺めたり。ランチに中華街を探検するのも楽しい。今回は、桂宮で麻婆豆腐を食べたけれど、やっぱり、絶品だったなあ。豆腐はもちろん材料はすべて中国から空輸しているとか。

朝から夕方まで部屋で集中して仕事。多くの文士が滞在したホテルニューグランドは、毎回おなじ部屋に泊まらせてくれるので便利。ちなみに、ぼくの定部屋の隣の隣には、作家大佛次郎が専用につかっていた部屋「天狗の間」がある。仕事をあがると、ホテルの銘バー、シーガーディアンⅡでアードモアのソーダ割りを呑みつつ一服。夕餉は、予約してあった、たん熊北店熊魚庵へ。白木のカウンターで軽めのコースをいただく。主菜は、名物すっぽん丸鍋にした。とはいえ、すっぽんの身はほとんどなく、滋味溢れる琥珀色のスープを主にいただく鍋なのだ。なんともいえない豊穣なスープで、これで、ぬる燗にした黒龍吟醸純米酒を一本呑んでしまう。今回、旅盃は、北大路魯山人の刷毛目盃を持参した。
すっぽん鍋のあとには、これも、たん熊名物、かやくご飯がでる。たん熊以上に美味しいかやくご飯を、ぼくは知らない。ご飯のお味は関東にあわせてあるらしい。京都本店の味はもうちょっと淡い。やはり、スープがメインだとお腹が減るのか、はも、中トロ、白鯛のお寿司を一貫ずつにぎってもらった。食後は、シーガーディアンを再訪。タリスカー12年、響21年を、寝酒に一杯ずつ。

翌朝も午前六時から執筆。遅い朝食は再びたん熊で朝粥をいただく。お午にチェックアウト。あまりに美味しかったから、ランチはもういちど、桂宮で麻婆豆腐を食べちゃった。

2018年12月17日月曜日

Dungeonでの一夜〜レンカ(踊り)×村岡佑樹(g)×野澤夏彦(g)×石田瑞穂(詩)〜


石田瑞穂 Mizuho Ishida 
 Photo by ©️池田敬太 Keita Ikeda


Renka 
Photo by ©️池田敬太 Keita Ikeda



野澤夏彦 Natsuhiko Nozawa
Photo by ©️池田敬太 Keita Ikeda




村岡佑樹 Yuki Muraoka 
Photo by ©️池田敬太 Keita Ikeda


 去る11月9日の日曜日。東京板橋区にあるアートスペースDungeonにて、詩とアートのコラボレーション展「直角はありません」のクロージング・イベントが開催された。
 本ブログでも告知してきたけれど、踊り手のレンカさん、アルバム「百年ののち」をリリースしたばかりの新鋭ロックバンドAram(アラム)のメンバー野澤夏彦さんと村岡佑樹さんによるツインギター、という編成で、ぼくらは「ポエトリー・パフォーマンス」に挑んだのだった。

 会場は、大盛況。観客席には、コラボレーション展に参加された詩人の広瀬大志さんと、そらしといろさん。そして、広瀬さんと共創された美術家の宇野和幸さん、詩人の生野毅さんもお見えになる。
 獨協大学教授の原成吉教授をはじめ学生、卒業生、早稲田大学とフェリス女学院大学の学生のみなさんもご来場くださった。

 イベントは、午後5時からスタート。まず、「絵画による詩は可能か」と果敢に問いかける美術家のタカユキオバナさんによるポエトリーリーディング。そして、本展の名づけ親にして詩人の川口晴美さんがリーディングをされた。つづいて、ぼくらの出番。

 漆黒のドレスをまとったレンカさんが、登場。ソロで踊りはじめる。そこに、野澤夏彦さんと村岡佑樹さんが、かすかにひずむディストーションを対奏しつつはいってくる。さらに、ぼくはノートに書きつけた長篇詩「神迎え」(かむかえ)を粒焼くように、朗読していった。
 レンカさんのしなやかな四肢は、極力動きを抑えつつ、音楽と詩の言葉の透き間にゆらめきだち、舞い、鳥に、雪に、光へと生成してゆく。そうしながら、音楽と言葉の抱擁をうながす形象を紡ぎだす。
 野澤夏彦さんと村岡佑樹さんのツインギターは、クリアからノイズまで、電子の音色と音響をたくみに重奏させ、織り解きながら、エレキギターという楽器の潜在性を詩の深層まで降りてゆく。しかも、ロックやジャズのコードやリフをほとんど駆使せず、踊りと詩がその場で生起させる宙空から、完全に即興で、特異なスケールとビートを醸してゆくのだった。それは、終盤のふたりの即興ソロ演奏でもそうで、シングルノートで鮮やかにソロをとる村岡さんにたいし、野澤さんはエフェクターを自在にあやつり茫洋と揺蕩うかのアンビエントを展開していった。
 フィナーレは、レンカさんの踊りとぼくの詩作品「ネザーランド」(『耳の笹舟』収中)の朗読でデュオ。ぼくの書く詩は本質的には宛先不明の詩だと思う。でも、この夜、じぶんの詩が初めて、レンカさんの踊る肉体に運ばれ、どこか遠いアドレスにつれていってもらえた、という得がたい感覚を得た。臆面なく書けば、一詩人にとって、とても幸福な出来事だと思う。
 これもすべて、レンカさん、野澤夏彦さんと村岡佑樹さん、お三方の稀有な才能とアーティストシップの賜物としかいいようがない。

 そして、もちろん、この夜ご来場くださったgreat audiencesのお力だと思います。

 こうして、オファー当初はまったく予期していなかった成果を得たのも、忍耐強くご支援くださったDungeonのオーナーの戸野倉あゆみさん、キュレーター/プランナーであり映像作家の安藤順健さん、そして、レンカさんとぼくをひきあわせてくださった類稀な批評家にして詩人の生野毅さんのおかげです。また、写真家の池田敬太さんは、この記事にも掲載させていただいている素晴らしい写真作品を、無償でお貸しくださった。ここに記して感謝いたします。

 みなさま、ほんとうに、ありがとうございました。

2018年12月5日水曜日

Dungeonでのリハーサル


右:野澤夏彦さん 左:村岡佑樹さん


 巣鴨のとげぬき地蔵にお参りしたあと、蕎麦屋で呑み、板橋本町のアートスペース、ダンジョンへ。

 12/9のポエトリーリーディングのためのリハーサルがあったのだ。いま、書きすすめている長篇詩「神迎え」(かむかえ)の原稿をもって。当日読む原稿は、会場に展示もされます。

 晩秋の寒夜にもかかわらず、リハーサルは、踊り手のレンカさん、ロックバンドのAramの村岡佑樹さん、野澤夏彦さんのフルメンバーで参加。ダンジョンのオーナーの戸野倉あゆみさんと本展キュレーターの安藤順健さんも立ち会ってくださった。

 みなさん、日中の仕事をおえて、リハーサルというよりゆるやかにセッションを愉しむ體だ。でも、音と踊りがはじまるやいなや、酔いもさめるテンションでリハ開始。

 気心知れた村岡さんと野澤さんのギターがからみあう音の空中を、レンカさんが泳ぐように舞う。詩も、ただただ、時を忘れて愉しみ、たゆとう。ジャンルを越境するバンドのような。すごく、豊かな一時間でした。

 当事者ではあるけれど、当日が待ち遠しい。ちょと、緊張しますが。イベントの詳細は、下記リンク、ダンジョン公式ブログをご覧ください。


http://chikashitsu.blog.shinobi.jp

 ぜひ、お越しください