2019年7月31日水曜日

連載エッセイ「詩への旅」第三回が掲載中



 横浜はフェリス女学院大学での、ことし最後の講義が終わった足で、東京の神田須田町へ。思潮社編集部の高木氏と出本氏、そして、装幀家の奥定泰之氏をお誘いして、最新詩集『Asian Dream』刊行の打ち上げを、神田の老舗蕎麦屋「神田やぶそば」でしたのだった。

 写真は、やぶそばの「天ぬき」。いわば、蕎麦ぬきの天ぷら蕎麦。つゆにしたした天ぷら(天たね)を、おもに酒のアテとして食すのだ。奥定さんが、これを所望し、めずらしげにつまんでいた。

 さておき。左右社WEBで連載中の、詩と紀行のエッセイ「詩への旅」の第三回が掲載されました。下記、リンクより読むことができます。


 今回は、日本を代表する戦後詩人にして酒仙、田村隆一と、詩人の生地、東京大塚をめぐる散策。

 ぜひ、お愉しみください。

2019年7月23日火曜日

詩人Martina Diegoと逢う




さる土曜日の夕方。秋にリブートする「LUNCH POEMS @DOKKYO season2」にご出演いただく、イタリアの若手詩人マルティーナ・ディエゴ氏と池袋で初めてお逢いした。

2018年春に日本で上梓された詩集『元カノのキスの化け物』(アートダイジェスト)は、ディエゴさんの第一詩集。なんと、詩人は、母国語のイタリア語ではなく、最初から最後まで日本語で詩集を書き下ろしたという。「私のポエジーはイタリア語では表現できなかったから」と、ディエゴさん。ジョセフ・コンラッドやウラジミール・ナバコフが、そうだったように。
例のごとく、日本の詩界では、彼の詩集はあまり報知されなかった。ぼくがアンケートでとりあげたくらいかな。とまれ、書評誌や新聞で紹介されるなど、好反響を得たのだった。

 昨年、ぼくがディエゴさんの詩集を、偶然、手にしたのも、イタリア人シェフのパオロさんが野毛でやっている焼き鳥屋「トリノ」(!)でのこと。ワインのとなりにおかれた詩集に目がゆき、まず、タイトルに顔面をパンチされ、ページをめくるうちに、つぎつぎ、ボディブロウをくらったのだった。
 その、日本語とも外国語ともつかない不思議な詩語に。

美尻の美貌に酒(アブサン)を一杯発注して
秋の空を縁取っていた窓を眺めながら
乾杯を揚げた
変わらない夢へ      (「秋の空の乾杯」より)

 一軒目は、メイドさんのいる珈琲店で。二件目は、ビアバーで。日本とヨーロッパの詩、翻訳のポエジー、アート、ロック、見事な日本語でくりだされる明晰な言葉のジャブを浴びながら、ここちよく四時間がすぎたのだった。

 秋、11月のランチポエムズが、とても愉しみ。

2019年7月15日月曜日

ARAM in FERRIS !



Kohei and Yuki : ARAM 


 7/8月曜日、ぼくが担当しているフェリス女学院大学の講義に、注目の若手ロックバンド「ARAM」(アラム)のメンバー、 コーヘイ(ボーカル)さんとユーキさん(ベース)がゲストで登場してくださった。

ミニイベントのタイトルは、「夜の街を歩くポエジー 詩と詞」。

音楽と言葉、ロックの歌詞と現代詩、声へと生成するポエジーなどをめぐってトークをしたのち、ぼくが、新詩集『Asian Dream』から三篇をユーキさんのギターとともに朗読。つづいて、コーヘイさんとユーキさんが、ローソンHMVからリリースされた新譜『百年ののち』から「夜とうつつ」、「木犀の日」をライブで演奏してくださった(アルバム『百年ののち』については、昨年12月末の拙ブログでも詳述したので、そちらをお読みください)。

講義では、日本の近現代詩とともに、ロックの歌詞をとりあげている。ことしはアラムの「夜とうつつ」、「木犀の日」を学生さんたちと聴き、精読していた。甘いマスクからは想像がつかないハスキーボイスで歌い、アコースティックギターをかき鳴らすコーヘイさん。そこに、ユーキさんのフェンダーがかぶさってゆく。いつもの教室が、あっというまにライブハウスになって、学生さんはうっとり聴きいっていた。期せずして、現代詩の生の朗読とロックの生の歌声を聴き比べるという、ぼくにとっても初めての、贅沢な試みになった。

アラムのおふたりにとって、こうしたトーク、しかも大学構内でのイベントは、初めての体験だったという。このミニイベントは、歌詞については自分自身できちんと語りたいというコーヘイさんの熱いボランタリティーによって実現した。コーヘイさんは大学生時代、梅崎春生や吉行淳之介などを専攻し、村上春樹のファンだともいう。

おふたりは、自分たちのスタンスを「インディーズ」と明言する。『百年ののち』は、メジャーアルバムと遜色なく、キャッチーで聴きやすい。表面的には。けれども、コーヘイさんとユーキさんの歌詞論やロック論を聴いていると、デジタルネイティブの他者論など、いまを生きる20代の複雑な世界観が潜在していることが伝わってくる。ポストサイケデリックともいわれる現代のロックは、メジャーの仮面のしたでインディーズの牙を研ぎ澄ましているのかもしれない。

講義のあとは、おふたりとひとりの学生さんを誘って、野毛酒場へ。たまたま、月曜日は早めに閉店する日本最古のジャズ喫茶「ちぐさ」があいていたので、入店。名盤「GETS/GILBERTO」のLPがかかっており、ぼくらはビールを飲みながら、数日前に他界したジョアン・ジルベルトを偲んで聴き入る。すると、こんどはビル・エバンス・トリオの名盤「WALTS FOR DEBBY」が。アラムのメンバーは全員、ビル・エバンスが大好きだという。こんどは、安くて旨い若鳥焼きの店「雅」で打ち上げ。それから、老舗バー「R」へ。エバンス、ミツメ、サウス・ロンドンのミュージックシーンなど、カクテルを呑みながら、ぼくらの言葉の夜は終わりそうもないのだった。