ジャズとセッションする新詩集『Asian Dream』(仮題)の初稿を、そろそろ、入稿しなくてはならない。とまれ、原稿用紙にペンで綴った詩稿をPC清書してもらったものの、机辺に積まれゆくほかの原稿や講義に圧され、まったく見る暇がなかったのだった。
文士らしく、温泉宿にでも逗留して、じっくり推敲したかったのだが。そんな、恰好いい余裕はない。打ち合わせや講義に出向く車中や、スキマ時間に喫茶店にとびこんで、ゲラをひらくのが関の山なのだった。
フェリス女学院大学の講義後、野毛の日本最古のジャズ喫茶&バー「ちぐさ」へ。呑んでしまうまえに、万年筆とツバメノートをとりだし、いままで書けなかった新詩集の跋を執筆。すると、マスターから、「リクエストはどうします?」と尋ねられた。店内を見回すと、ぼく以外、お客さんはいない。だから、オーネット・コールマンが作曲し本人もレコーディングメンバーとして参加した、オーケストラ・アルバム『Skies of America』をリクエストした。ぼくには変な聴覚があって、ほんとうに集中したいときは、ラウドなフリージャズを聴きながら執筆する。めいっぱい、大音量でかけてもらった。
ジャズの大洪水に身をまかせていると、なにも視えなく、聴こえなくなり、孤独のゾーンにはいってゆく。バーボン・ソーダを呑み、ゴロワーズを喫い、ひたすらペンをはしらせていると、30分ほどで書き了えた。
しばらく、マスターとジャズ談義をしていると、仕事帰りらしき女性客がおひとりで入店。彼女が冷えたビールとともにリクエストしたのは、ビル・エヴァンスの名盤『Alone』。きっと、いつも、せわしい一日の終わりに、こうして独りの時間を楽しむのだろう。
ぼくも、バーボンをおかわりし、彼女の静かな儀式にまぜてもらった。
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