2021年8月10日火曜日

盛夏の酒器





 また、非常事態宣言がでてしまい、立秋をすぎても、きょうなどは気温38度の猛暑日。

 

そうして家呑みがすっかり板についてしまい、同時に骨董、なかでも酒器や肴を盛る食器を入手するペースがいやましにあがる。

 

 ぼくの盛夏の酒器は、大正時代の職人の手になる江戸硝子徳利に、初源伊万里盃や南宋砧青磁盃をとりあわせ、日毎の晩酌をまかなっている。

 

 古染付とみまがう初源伊万里盃は、その名のあらわすとおり、日本人陶工の作ではないだろう。見込みのコバルトブルーにちかい釉溜や呉須の筆致もさることながら、厚ぼったい古伊万里とはちがい、繊細な花びらのように薄手の作行き。可憐に撓んだ器形も好もしい。紙なみに薄い口縁は酒雫の切れもじつによく、涼やかに呑める。

 

 青磁盃は123世紀の作。翠緑の美しい釉調にはどこかあたたか味もある。このうえなくシンプルで、シャープな器形は南宋期龍泉窯の規範となる作行きだろう。白州正子ともゆかりの文芸評論家A氏の蔵出品だそうで、まさにコロナ禍の初期に譲っていただいた盃だ。

 

あのころ、どんな予感がはたらいて、この盃を手にしたのだろう。そんな物想いにとらわれつつ、酒器は真夏のままだけれど、立秋をすぎたので、江戸時代初期の絵志野楓皿をだし、奈良の押寿司を盛って一杯呑んだ。


夏から秋へ、器の心ははや移ろいだすのだった。

0 件のコメント:

コメントを投稿