2017年8月23日水曜日

ちいさな夏休み、その1





執筆と仕事がひと段落。

銀座で打ち合わせがあったので、ついでに、リニューアルした伊東屋にいってみる。

『耳の笹舟』の自筆原稿の寄贈を、某文学館から依頼されていた。ぼくは詩を原稿用紙にペンで書いて提出している。送った生原稿は、当然、返却されない。じぶんの詩稿には思い入れがないし、面倒なときはコピーもせず送ってしまうのだが、こういうとき、困ってしまう。欠落している原稿は、清書しなおさないといけない。

というわけで、『耳の笹舟』を執筆した「葱色の升目」の原稿用紙、満寿屋のB4ルビなし緑罫原稿用紙No.21を、伊東屋に購入しに来たのだった。ぼくが二十代のころ、満寿屋のオリジナル原稿用紙は、地元浦和の須原屋書店にも売っていた。いまは、都内にでないと手にはいらない。

夕刻、時間があったので、ひさしぶりに映画を観ようと思う。かつて、サラリーマンたちのいないお盆の銀座は、ゴーストタウンのようだった。そんなとき、ぼくは混雑した行楽地をさけて、空いた銀座を闊歩し、佐谷画廊をはじめとするギャラリーをのぞき、ヨーロッパ映画やアメリカ西部劇をはしごして観る。それから、ガード下の汚い焼き鳥屋で呑むのが、晩夏のちいさな愉しみだった。

ところが、きょう日、ろくな映画がかかっていない。昔日のシャンテ・シネよ、シネスイッチ銀座よ。トリュフォーはいずこ、キシェロフスキはいずこ。初めて『シェルブールの雨傘』を観たのも、銀座だった。新国立美術館の「ジャコメッティ展」は、もう観たしなあ。銀座は、もう銀幕の街ではないのかしらん。

足は、おのずと酒場へ。

四丁目から歩いて路地をのぞいたら、「はち巻き岡田」の暖簾がかかっていた。里見弴の揮毫で「舌上美」と染め抜かれている。

白髪葱がうかんだ、熱いスープをいただいて、お腹をあたためる。それから、築地ではここ数日、とみに味よしという穴子白煮。平貝のお造り、夏薇の胡麻和え。ぬる燗三本。ビールはなし。〆に、深川雑炊。

忙しかった盛夏をふりかえりながら、暑気払いには、なぜ、ぬる燗が最適なのだろう、と、しばし物思い。あ、これ、夏休みだ、とほほ笑んで、独酌。

告白すると、このあと、「たいめい軒」のスタンドで、支那そばを食べて帰りました。


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