2019年3月1日金曜日

横浜でカンヅメ






 横浜は山下公園を望むクラシック・シティホテル、ホテルニューグランドに二ヶ月にいちど、仕事で泊まっている。
今回は、やっと、再校正までこぎつけた、四月刊行予定の新詩集『Asian Dream』のゲラや、エッセイのための原稿などを持参。いつもは、本館3階の、かつて大佛次郎が書斎がわりに連泊していた一室「天狗の間」の隣室をつかわせてもらっているのだけれど、ホテル側のはからいで、4階のデラックスルームが用意されているという。せっかくのご好意なので、ありがたく泊まらせていただいた。

 部屋の窓の正面には、木枯れた山下公園のむこうに、氷川丸、曇天の海が鋼色に輝いている。海と港のゆったりとしたリズムに、こころが落ち着いた。ペンケースからもうすぐ五〇歳になるモンブランの万年筆をとりだし、『Asian Dream』のゲラ、書きかけの原稿用紙をガラスの天板のうえにひろげた。
 ときおり、港から、ポーッツ、という汽笛。執筆中の昂まった神経が、ポーッツに、ほぐされる。

 中華街へ脱走し、ビールを呑みたくなるが、我慢。
 両切りのゴロワーズを吸いに、喫煙室へ、小憩。あゝ。
 夕方五時になり、1階のバー「シーガーディアンⅢ」が開店。
 ジンの幻臭が鼻腔にふくらむが、ぐっと、こらえる。
 ゲラなおしと、書評三枚、エッセイ十二枚を書き了えると、ホテル内のたん熊北店「熊魚庵」の予約時間に。

 仕覆にいれた旅盃、ライター、烟草をもって、5階へ。着物姿の若くて美人の仲居さんに案内される(ついてる!)。生ビールのあとは、譲ってもらったばかりの紅志野ぐい呑みにお酒をついでもらい、上機嫌。いつも、主菜だけこちらで選べる「おこのみ」コースにしており、今回は、せっかくニューグランドだから、黒毛和牛ステーキに。鰆の卵をホワイトソースに仕立てた鰆青海波焼きも美味だった。
 気持ちよくお酌していただいたせいか、気づけば、徳利を四本、空にしていた。春になれば、熊魚庵の窓から港の桜がすぐ下に見える。いつか、ライトアップされた夜桜を愛でつつ、花見酒と洒落込みたい。

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