さる8月24日の夕方、2019年度ピューリッツァー賞詩人フォレスト・ギャンダーさんからメールをいただき、東京竹橋の国立近代美術館で開催されたダンサーのエイコさんとのコラボレーション・イベントにうかがった。
イベントは、ギャンダーさんの最新にして日英対訳詩集『Eiko & Koma』(awai books:中川映里、Matthew Chozick=訳)の刊行記念会でもあった。
Eiko & Komaは、アメリカやヨーロッパで活動し数々の賞を受賞するなど高い評価を得ているダンス・ユニット。エイコさんは日本人女性、1970年代に渡米された。ギャンダーさんは、長年、エイコ&コマのダンスを観察し共同創作をすることで、言葉がエイコ&コマのダンスのムーヴメントそのもへ生成する、驚異的な詩集を書かれたのだ。
とまれ、エイコさんのダンスを観ることができたのは、初めて。じつに、ゆったり、ゆっくりと、ダンスの語法からではなく、身体の内奥と会場の空気と対話するように、エイコさんはソロで踊りはじめる。
スポットライトさえない、蛍光灯に白く照らされた会場はどこか無機質で殺伐としており、肉体も装飾的な所作はいっさいない。その場を、エイコさんの肉体が観客に踊りの渦をひろげるようにして、べつの時空へと誘ってゆく。
ギャンダーさんは、そんな、エイコさんの所作をじっと観察しながら、ポスターサイズの白紙にマジックペンで、「be with」、「mother」など、簡潔な言葉をなげかけて、エイコさんのつぎの展開をじっとまつ。
詩とダンスのコラボレーションというと、その場で相互の作品を交感=交換しつつパフォーマンスする形態になりがちだ。けれど、ギャンダーさんとエイコさんの言葉とダンスのかけあいは、お互いの呼吸の内側にはいりこみ、息を待ち合わせ、ともに、どこか別の場へ踊りでようとする。
超言語的で強靭な所作もなく、超身体的で流麗な詩句もない。剥き出しの、裸の、be with、あるがままの共―場。
会場には、マリリアさんや詩人の野村喜和夫さん、永方祐樹さんをはじめ、アメリカ現代詩研究の原成吉先生、遠藤朋之先生、高橋綾子先生、小川聡子先生、山中章子先生も来場されていた。また、ギャンダーさんと詩人の吉増剛造氏の言葉をラルフ・ウォルドー・エマーソンへの応答へと織り上げた書物『裸のcommonを横切って』(小鳥遊書房)の共著者にしてアメリカ文学研究家の堀内正規先生ともお会いでき、懇話する機会をえた。
イベント後は、九段下ちかくのワインバーで、ギャンダーさんをかこんで乾杯。写真は、左から遠藤朋之先生、フォレスト・ギャンダーさん、それから、ぼく。ギャンダーさんからは事前に、日本滞在中に食事をしましょう、とのお誘いをうけていた。実現するかはわからないけれど、ギャンダーさんをふくめ、会いたかった方たち全員とお会いできたような、愉しき一夜だった。
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