「しの傷」原稿の一部
東京は蔵前にある唯一無二のギャラリー「空蓮房」を主催する写真家、谷口昌良さんと、視覚詩作品を共創していたことは、以前、書いた。その視覚詩作品「しの傷 Ⅰ」と「Ⅱ」が、完成。
今日からパリで開催される「第14回 ヴィジュアル・ポエジィ・パリ展」会場へ、無事に郵送されていった。
展示の詳細は、下記のとおりです。お近くの方や、パリにおいでの方は、ぜひ、ぼくらの代わりに、ご覧になってあげてください。
第14回 ヴィジュアル・ポエジィ・パリ展
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会期 20 1 9年11月16日(土)~12月7日(水) 休廊日は日曜日
画廊 Galerie SATELLITE
7 rue François-de-Neufchâteau, 75011 PARIS FRANCE (tel) 01-43-79-80-20 地下鉄ヴォルテール駅より徒歩4分。 |
谷口昌良さんとぼくの共同作品は、シンプルにいうと、谷口さんの写真作品のうえに、ぼくが詩を書くというものだった。もちろん、それだけでは、視覚詩でもなんでもない。
谷口さんの写真作品は、静岡の三保松原で撮り下ろされた連作写真。視力の弱い谷口さんが眼鏡をはずすことにより、ピントをあわすことが不可能になったアナログカメラで撮影した松、海、空、光は、じつに不思議かつ不可解な光彩と陰翳をゆらめかせる。偶然の引力、手と機械の織り成す無意識が、幽玄、としか言いようのない光景と物象を印画紙に潜ませる。白隠の書のような、と、写真家でありつつ僧侶でもある谷口さんは、いうのだが。
たいして、ぼくは、言語をふくむ世界の諸存在を「書き撮る」ことへの思索とも読める、古韻を駆使した一行詩を二片書いた。双片の一行詩は、各詩の中心にある平仮名「し」のところで、垂直と水平に交差している。さらに、詩作品を二宮豊さんに英訳していただいた。
当初は、特注の極厚アクリル板の底に谷口昌良さんの三保松原の写真を焼着、アクリルの表にぼくが自筆で、十字路のような形式の一行詩を書く予定だった。そして、アクリル板の写真は二点制作し、一点は日本語詩、一点は英語詩とするはずだった。アクリル板の中間で、詩の文字が写真の不可能な消失点へと落下する飛影を、視覚詩とする計画だったのである。
ところが、この視覚詩の計画から、ぼくらの共同作品は最後の土壇場でおおきく変貌を遂げてしまう。というか、まったく別のポエジーへと転生してしまった。ゆえに、ぼくらの共同作品は、もはや視覚詩からも外出してしまったのかもしれなくて。
では、実際の作品はというと、パリに行ってご自身の肉眼で観ていただくほかはありません。
ただ、谷口昌良さんとぼくは、今回の共同制作によって、新たな創造の手応えを感じてもいる。
これを手がかりに、もうすこし、おたがいに深く省察と実践をかさね、2021年春には新プロジェクトとして、日本でも公開できればと考えています。
この場をかりて、出品の機会をあたえてくださった、詩人ヤリタミサコさんに深い感謝を。
そして、なにより、卓越した写真家にして新しき詩的パートナー、谷口昌良さんに、友愛をこめて、深い感謝を。
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