2021年9月28日火曜日

秋の酒器、桃山の山瀬盃

 



 やっと秋らしい好日がつづくようになった。

 そこで、秋季の酒器をだすことにする。

 涼しくなってくると、夏の染付盃や青磁盃から、こっくりとした古唐津盃や李朝盃などをつかいたくなって。片口を仕舞い徳利を桐箱からだした。

 

 この初夏に青山の骨董店利菴アーツが開催した「古唐津展」は、近年でも出色の展示即売会であった。

 骨董雑誌『目の眼』で見開き2ページの写真付き記事が紹介された古唐津コレクター旧蔵の名品がでそろうという評判もあり、コロナ禍にもかかわらず、大勢のお客さんがつめかけたとか。

コレクター氏は、生まれも育ちも唐津。幼少のころから裏山の古窯跡に行っては、古唐津の陶片をひろって遊んだという、根っからの古唐津党のプロフィールが紹介されていた。

 

幸運にも、ぼくは盃を一個、入手することができた。

伝世品の桃山時代の山瀬窯盃で、無傷完器。径8.5センチ、高4.5センチ。過不足なく掌におさまるサイズで、手持感も古唐津らしくどっしりと安定している。

おおらかに湾曲し傾いだ容もじつに魅力的だ。全体にこまかく貫入がはいり青味をおびた灰釉。胴にのこされた陶工の指痕。肌は永年の使用でたっぷりと酒を吸い、とろりと育ちきっている。野趣と気品をあわせもつ古唐津山瀬窯の魅力がふんだんに盛られた盃だろう。

 

見込は、酒を吸うと青灰の釉調が沈みこみ、かわりに仄白い灰釉だまりが浮きあがる。その容が、秋夜に咲く月暈のようで。古備前徳利にあわせたくなる古唐津盃なのだが、やんぬるかな、好適な徳利をもたない。

 

かわりに、今年の春先に入手して、本ブログでも紹介した古山子こと小山冨士夫の徳利にあわせてみる。なかなかに、いい。桃山唐津陶に傾倒していた古山子の作ゆえ、おおらかで野趣あふれる造作の古唐津盃とも、時代を超えたかけあいを奏でてくれる。

これで、晩秋から冬にかけて、気持ちよく酒を呑めそうだ。完器の山瀬なぞ、ぼくのような若輩にはもったいない盃かもしれないけれど…すこし、背筋をのばして秋の酒を味わいたい。

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