ゴールデンウィーク、いかがおすごしでしたか?
ぼくは妻と、岐阜から、郡上八幡、高畑温泉へと旅してきました。
郡上は、生まれて初めて。義理の妹夫婦、古瀬一家が移住した土地。生後四ヶ月になる第一子、きっぺいくんを育てている。美しき〈水の町〉・郡上八幡の中心に、長良川へとそそぐ清流・吉田川と小駄良川が合流する。街の小径という小径には、水路がめぐらされ、清水が流れている。街のどこにいても、鈴を鳴らすように涼やかな水音がして、透きとおった水には、にしき鯉が泳いでいる。山の緑ときれいな空気、そしてゆたかな水系に育まれた郡上八幡は、子育てに、とてもいい街だろう。
自然だけじゃない。郡上八幡はもともと織物や染物で名高い、伝統ある商いの街。郡上城を戴く城下町だ。いならぶ歴史的保存建築の町家には、郡上の人々が実際に住まわれていて、まさに、タイムスリップしたような時空がひらけている。そして、超新鮮な川魚や山菜をふんだんにつかう呑み屋が多く、しかも、安い。
岐阜に講演にきた美食小説家・立原正秋がかよったという郡上鰻の名店「魚寅」。関東風に蒸すのではなく、注文を受けてからさばいた鰻を備長炭で直火焼きする、関西風でだすのだが、その身は蒸したように甘く、やわらかい。蒸さないので、旨味がそのままぎゅっと身にとどまっている。おすすめの酒は、郡上の地酒「ダルマ正宗」。黄味がかった三年ものの古酒だけれど、まったく臭みがなく、コクがあるのに呑みやすい。
伝統文化だけではなく、おしゃれな家具屋や、地ビールを自家醸造する「郡上八幡麦酒こぼこぼ」ブリュワーリーもある。
地酒は絶品、逸品ぞろいです。市販のお茶パックでさえ、郡上の水で煎れると、玉露のごときまろやかな味になる。その水で造った酒の味たるや、いわずもがな、だ。老舗「上田酒店」の「郡上踊 純米酒 樽酒」を、一杯。郡上白鳥山中にある鍾乳洞の水、日本でもめずらしい純粋硬水で造るという酒は、口あたりがとにかくなめらかで、フルティーな馨が鼻腔にまっすぐ、さわやかに吹きこむ。時を経ると、米と水の風味がしっとりと舌をつつみこんだ。よく、「美酒は水のごとし」なんていうけれど、「郡上踊」にはこの言葉がぴったりくる。水って、酒造りには大切なんだなあ、と実感させてくれるいい酒だ。
翌日は、街から車で二十分ほど静かな山間にはいった、秘湯高畑温泉湯之元に投宿。郡上は鮎でも有名だが、稚鮎は六月の第一土曜日をすぎないと、解禁にならない。でも、天然温泉でゆっくり疲れをほぐしたあとは、川釣りの「天魚」(アマゴ)を、活け作りと焼き魚でいただく。
アマゴは、いまが旬。卵をはらみかけて、よく脂がのっている。とても警戒心のつよい魚で、一日に釣れるのは、鮎七尾にたいしアマゴ一尾、だとか。刺身は、クセも臭みもない。意外なことに、瑞々しい桜色をした身はとろっとまろやかで、舌感触もいい。かすかに笹を思わせる、不思議な馨が口中にじわじわひろまる。たぶん、ここのアマゴを食しつづけたら、新鮮な海魚さえ臭く感じてくるだろう。熟れた野生の果実のようで、酒がなくとも、ただただ、食べていたい川魚だ。郡上八幡でさえ、天然のアマゴの刺身はおろか焼き魚も食べられない。渓流にちかい、山中の宿だからこそ供することのできる料理だろう。
そんな、自然も伝統も文化もある旧い土地だもの。ぼくのような詩人には、たまらない。いつか、ここに逗留して、詩を書いてみたい。
さて、ぼくらの旅の目的には、郡上ですくすく育つきっぺいくんに、ロンドンはパディントンから来日した「パディントン・ベア」を届ける、という使命があった。
パディントンが「やあ」とあいさつすると、きっぺいくんは、にこ〜っと笑い、頭から、ガブッとお口にいれたのだった。
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