2017年12月15日金曜日

韓国、大学路の夜


左から、金永卓さん、李慧美さん、ぼく、韓成禮さん


李慧美さんの著者近影とサイン


左から、金永卓さん、李慧美さんの最新詩集



 翌日の夜は、大学路で対談の収録があった。

 大学路は、もともとソウル大学があった通りで、いまも学生街の名残と活気がある。

 詩人で、ソウルで詩専門の出版社を経営する金永卓さんが司会。対談のお相手は、詩人の李慧美(イヘンミ)さん。通訳を、お馴染み、韓成禮(ハン・ソンレ)さんがかってでてくださった(今回も、写真はハンさん)。

 おきづきの方もいらっしゃるかもしれないが、イさんは、現代詩手帖12月年鑑号で、ぼくが論考のなかでふれた若手女性詩人だ。紙幅があれば、全行を引きたかったけれど。

 1980
年代生まれのイさんは、韓国の若い読者から支持を得ている。女優のごとき麗人だが、ご本人は純粋かついたって謙虚。ハンさんが訳してくださった詩をいくつか読んで、ぼくはその詩才が本物であることを確信した。けっして、ルックスに頼った詩人ではない。そんなことは、もちろん、論考にひいた彼女の詩行にふれていただければわかることだけれど。

 ご恵贈いただいた詩集の後書きにあるというので、ここに書いてしまってもいいと思う。イさんは、小学生期に、クラスメイトからいじめをうけていた。そのころのイさんは、砂の感触に惹かれて砂場で遊んでばかりいる、ちょっとかわった子で、ぽっちゃりしていて、勉強もスポーツも苦手だったとか。

 対談中、彼女は「いまでも、人間が怖いんです。じぶんのなかの恐怖をなんとかしたい、救いをもとめて詩を書いているところもあります」とも発言されていた。ふだんは教師をしており、スキューバダイビングが趣味というイさん。ご両親も詩人だそうで、文才にも容姿にもめぐまれているのに、いつもどこか孤独な表情を灯していた。

 とまれ、日本と韓国の文学やアートの動向、韓国の20代について、韓国で人気のあるジャパンアニメや日本の韓流現象、そして北朝鮮問題やグローバリズムなど、話題はつきなかった。

 キムさん、今回はぼくらを「羊肉串焼」のお店につれていってくださった。

 スパイス、というか、唐辛子でまっ赤におおわれた、ちょうど日本の焼き鳥よりすこしおおきい肉串を、じぶんで炭火のうえでくるくるまわしながら食す。でも、見た目ほどは辛くない。食欲を盛りたてるほどよい香ばしさで、ビールといっしょだと、食べる手がとまらなくなる。

 「これは、中国北方の朝鮮民族の料理、延辺料理。旨く、精がつき、しかも安い。大学路のソウルフードです。学生たちはこの羊肉串焼を一晩に四、五十本とたいらげながら議論に華を咲かせます」と、キムさん。

 ぼくらは河岸をかえて、さっぱりとした味つけが評判の韓国家庭料理の店に。いつしか、対談にはキムさんとハンさんもまざって、フォークナー、ボルヘス、河鐘五(ハ・ジョンオ)、呉圭原(オ・ギュウォン)といった文人詩人たちの話題でもりあがった。午前一時。店から遠慮がちに請われて外にでるまで、ぼくらは年齢も国境もこえ、ただ、ただ、文学好きの学生に舞いもどっていた。

 イさんは、千鳥足のキムさんと腕をくみささえ歩きながら、ぼくにそっと告げる。「わたしの詩集のタイトルは、英語だとout of violetという意味です」(イさんの詩集の表紙をごらんください)。

 スミレ色の夜から韓国の蝶たちが飛びたち、ネオンと闇の透き間へ、消えていってしまった。

 ハンさん、キムさん、イさん、こころから、お礼を。

 また、遊びにきます。

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