先週2月3日土曜日、節分の日のこと。
夕方から、日本現代詩人会主催の第68回H氏賞選考委員会があるので、外出。せっかくだから、すこしはやめにでて、外神田を散歩することに。以前から気になっていた、いまどきめずらしい古本屋の新店(?)があったのだ。
用事をすませると、さて、昼食はどうしよう。
御徒町ちかくの「花ぶさ」に足がむいた。
「花ぶさ」は、時代劇の巨匠、池波正太郎がかよったことでも知られる。店内には、石川庸氏による、白木のカウンター奥の定席にすわり呑む巨匠のポートレートがあり、池波正太郎自筆の鯛や鰆の画、染めぬきがかざられている。
ぼくを、初めて「花ぶさ」につれてきてくださったのも、大の池波ファンだった先輩ライターだった。それからの二十代前半のぼくは、江戸東京の香が残る小料理と店内の粋な雰囲気にすっかり魅せられ、すこし懐が温いときは、銀座の職場からこちらにかよった。いまも、神田や上野にくるときは、かなりの確率でぶらっと暖簾をくぐる。
千円台の昼定食、日本一といいたいクリームコロッケ定食や、冬限定のあんこう鍋(!)定食もいい。でも、ここは、名物「花ぶさ膳」にしてみよう。
「花ぶさ膳」は、先付、刺身、椀、重箱(四品)、釜飯、甘味、そしてお酒が一本ついて四千円のコース。ほぼ日替わりで料理はかわる。
その日のぼくの献立は、
先付 蕪のたいたん
刺身 鯛、鮃、鮪など
椀 蟹しんじょの吸物
重箱 子鮃の煮付、海老しんじょ揚、河豚の七味焼、
もずく酢
釜飯 牡蠣釜飯、赤だし汁
甘味 善哉
といった内容。見目は伝統的かつシンプルな和食だが、一品々々が、ほんとうに手のこんだ、繊細なほどこしになっている。カウンターのなかの料理人さんも常時四人はおり、質は、小料理屋というより料亭のきびしさと緊張感をたもっている。
お椀までは京風のあわくやさしい味つけなのだが、重箱のそれは江戸東京風。ぼくなどにも、濃く、からい。けれども、醤油の味香のつよい子鮃の煮付や河豚の焼物を食べるまに、細切り生姜ののったもずく酢を口にふくむと、舌が雪がれてやすまる。すると、見目よりずっとみっしり重い、海老しんじょの揚物も美味しく食べやすくなるのだ。このローテンションで、お銚子二本はあく。酒は、菊正宗。
お腹もこころも充たされ、ぼくは、H氏賞選考委員会がおこなわれる早稲田奉仕園にむかったのだった。
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