浅草、けとばし酔い1
上野のあとは、浅草へ。池波正太郎が好み、詩誌「荒地」創設メンバー、鮎川信夫や北村太郎が学生時代に会合した珈琲店「アンヂュラス」で小憩。
夕方から、ひさしぶりに、蔵前のギャラリー空蓮房での個展でお世話になった、谷口昌良さんと呑む約束をしていた。
空蓮房の運営や、近現代の写真コレクションで知られる谷口昌良さんは、これまで禁欲的なまでに自身の写真作品を公表してこなかった。それが、最近、1970年代から90年代前半までに撮りためた写真作品を、『写真少年1』、 『写真少年2』というタイトルで集成されたのである。
谷口さんの写真集については、いずれ本ブログでもご紹介したい。
その夜は、ぼくからのお祝いの気持ちもこめて、お誘いしたのだった。
最初は、別の店を考えていたのだけれど、谷口さんと打ち合わせるうち、
「吉原大門に、いい、けとばしがありますよ」
と教えられ、じゃあ、そこに、ということになった。
まだ、かわたれ刻にタクシーで乗りつけたのは、吉原入口そばにある桜鍋の老舗「中江」。
昔馴染の総格子のしもたや造。看板には、桜印に肉とある。いわずもがな、馬肉料理屋のことで、森下の老舗「みの家」にも同様の標があった。けとばし、とは、まあ、そういうことです。気づくと、隣屋も、桜鍋。
かつて、吉原遊びの往来に、精をつけるため、旦那たちがかよったとのことで、大門付近には牛鍋や桜鍋をはじめ百肉(ももんじ)を喰わせる店が軒をならべ隆盛したのである。いまも、浅草に肉料理やがおおいのは、江戸最大の遊廓の殘ん香と、明治以降の歓楽街としての発展があったにちがいない。
(つづく)
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