2018年5月24日木曜日

フェリス女学院大学の遠足





 〆切がつづき、ブログの更新が滞ってしまいました。いま、近現代詩の講義をもたせていただいているフェリス女学院大学にも原稿用紙を携行し、ファックスを拝借して入稿させていただいたり、講義中もケータイが鳴り、学生さんたちに笑われる始末。

 その、フェリス女学院大学の学生さんたちと、恒例の「遠足」にいった。昨年は、東京は蔵前にある「空蓮房」で開催されたぼくの個展にきてくれたのだけれど、今年は、神田神保町の古書店街にゆく。

 インターネットで本を購入することのおおい学生さんや若い世代にきくと、神田神保町古書店街はもとよりそもそも古書店そのものを知らない、という方が増えているように思う。ブックオフにはたびたび通うらしいのだが。さびしいですが、時代の流れ、というものでしょう。
若かりしころのぼくにとって、神田神保町古書店街の棚にならんでいたのは「古本」ではなく、つねに最新の情報だった。それも、現代のみならず、過去からのぶ厚いストックのある。文学書のみならず、古典、洋書、アート、マンガ、芸能、骨董、レコードにいたるまで、目にするもの手にするものぜんぶキラキラしていて、新しかった。それが、若さ、なのでしょうね。

 限定十名の古書店街ツアーには九名が参加(不参加の学生さんには課題)。午後四時半に岩波ホールで待ち合わせ。フレッシュな気持ちを大切に、マンガの「高岡コミック」からはじまり、「田村」、「澤口」、「小宮山」、「一誠堂」、「悠久堂」、「南洋堂」、「ボヘミアンズ・ギルド」などのスタンダードをおさえつつ一時間半ほどガイドする。
 田村書店では講義でふれた詩人たちの初版詩集にさわり、小宮山書店では三島由紀夫や澁澤龍男の初版本、直筆サインや書簡、四谷シモンや村上芳正の肉筆画などを鑑賞、店員さんのご好意で北園克衛の貴重かつ美麗な詩集『BLUE』初版も見せていただいた。建築書専門店で、土岐新が施工し菊地宏が改修してお店自体が現代建築作品でもある南洋堂も見学。思えば、北川書店で世界の絵本や児童書も、見せてあげればよかったなあ。

平日の夕方に、乙女たちのグループが古書店をそぞろ歩くのは、稀なことなのでしょう。店員さんたちやスーツ姿のお客さんたちは、ちょっと、目を瞠り、いつもぶつぶつ独り言ちている硬派な古本屋のおやじさんのぶつぶつは余計おおくなる。学生さんたちは、古本にうずもれた狭くて個性あふれる店内、中世まで遡る古本の匂い(苦手な方もいるけれど)、癖のある主人や本好きのお客さんの姿にふれ、ネットやブックオフ(いつもお世話になっているのに失敬!)では味わえない本のセレクトやもっと微細な質感を感得してくださったと思う。

詩人たちがかよった喫茶店「ラドリオ」や「神田伯剌西爾」、日本で最初期に焼餃子を提供したという銘店「スヰートポーヅ」などの古書店街グルメも紹介しつつ、最後は、愛書家と文士たちの憩いの老舗ビアホール兼洋食屋「ランチョン」で乾杯。小説家の吉田健一が考案した「ビーフパイ」(ビーフシチューのパイ包み焼き)や大岡昇平が好んだという「ニシンのマリネ」(しかし、ほんとうに文学者のカラーがでるなあ)などをお供に、成人はビアマイスターの注ぐマルエフやレーベンブロイ、未成年はソフトドリンクを呑んだ。

さて、写真の古本は、ぼくが当日入手した、北園克衛主催のポエトリー・マガジン「VOU93号。北園の写真作品「figure」シリーズ、視覚詩では伊藤元之「OP.127」など、詩は伊藤勲「ユウクリッド的な春」、清水雅人「消しゴムで星を消すな」などが掲載。折り返し地点をすぎたころの号だ。

来年の遠足は、どこへゆこうかな。

(今回は、更新をサボったこともあり、二回分を書かせていただきました)

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